第245話 宣戦布告

 翌日、掲示板に張り出された結果を見た後、四人はクレアの工房に押しかけていた。

 面倒事に巻き込まれず、落ち着いて話ができる場所はそこが最善だったのだ。


「まあ、案の定俺とコノハは通過していたわけだが、意外とあのナルシスト野郎も通過してたな」

「それって金色の弱そうな人のこと? 確かにびっくりだよね~」

「そんなこと言ったら失礼ですよ。あれでもAランクなんですから」

「……何気にイバラちゃんが一番ひでぇな」


 和気藹々とお茶を飲みお菓子をつまむ四人。

 そんな彼らの横で家主はぎこちない笑みを浮かべていた。


「……なあ。なんであたしの家に来るんだ? あたしの現状わかってやってんだよな、そうだよな?」

「当然だろ。ていうか、それはアリシアさんを怒らせたあんたの自業自得だろ? 俺たちは気にせず仕事しててくれ」


 バキッ、とペンのような何かが折れる音が響く。

 クレアは、アリシアに余計なことを言った罰として、アリシアからの指名依頼という名目で書類の作成をさせられていた。

 笑顔で怒るアリシアに逆らえることはできず、渋々その依頼を受けたのだがかなり大変な作業だった。


「ふざけんな! なんであたしがこんなことしなきゃなんねぇんだ! 元はと言えばテメェらのせいだぞ!」


 遂にクレアの怒りが爆発した。


「なんでだよ。勝手に人のせいにすんな」

「そうだ、そうだ! ウチは何もしてないぞー」

「お前らがおっさんを怒らせるからだろうが! 昨日のあの時に話すはずだったことを、今あたしが資料としてまとめてんだよ! お前らのせいだろうが!」


 そう。クレアが作成していた資料は、昨日ガイアスが説明するはずだった二次試験の内容だ。

 だが、煉とコノハの不用意な発言により、ガイアスとの地獄の鬼ごっこが始まったのだった。

 そのため、二次試験の内容は口頭ではなく資料によって説明されることとなったのだ。

 本来であればこれはアリシアの仕事となるのだが、副ギルドマスターとして様々な仕事を抱えているアリシアはとても忙しい。

 余計な仕事を増やされ軽く迷惑していたアリシアは、うまいことにクレアへと押し付けたのだ。


「あーはいはい。悪かったって。あのおっさんがあんなキレるとは思わなかったんだって」

「ね~。おじさんと夜明けまで鬼ごっこなんて、もうやりたくないよぉ」

「……お前ら、最後の方楽しそうに笑ってたじゃねぇか」


 反省していない二人の姿に、呆れたようにため息を吐き、クレアは座り直す。

 怒る気すら失せたようだ。


「それより、次は一対一の対人戦だろ? しかも興行目的の」

「ああ。毎年開かれるSランク昇格試験は、一年に一度の祭りだ。開催地となる場所には新しいSランクを一目見ようと人が集まる。つまり、いかに客を楽しませられるかも街としては重要な事なんだ。こんな一大イベントを使わないわけにはいかないってな。幸い闘技場があるこの街は、高ランク冒険者の武闘大会が行える。客引きという点においてはかなり有利だろ?」

「めんどくさ。客寄せパンダになった覚えはねぇぞ」

「レンさん。ぱんだ……って何ですか?」

「あー……なんでもない。気にするな」


 この世界にはパンダが存在しない。

 いや、情報が無いだけで実際にはいるのかもしれないが、ほとんどの人間は知らない。

 思わず元の世界の知識を使ってしまった煉は、適当にはぐらかした。


「一次試験通過者は二十四人。ウリンやヨミは当然のごとく、他にも数人ソロで活動している奴らが通過した。プラスでパーティ参加の奴と金色ナルシスト。シードありのトーナメントか総当たりか」

「――六人四グループ、各グループ二名ずつ勝ち残り、勝者八人でタイマンだ」


 煉の後ろからその場にいないはずの声が聞こえてきた。


「人の家に勝手に入ってくんじゃないよ」

「邪魔するぜ、『怪槌の姫』」

「お邪魔しまぁす。レンちゃん、この間は私のことを置いていくなんて、ひどぉい」

「別に一緒に行くなんて言っていない。それより何しに来た、ウリンとヨミ」


「双槍の猛犬」ウリンと「屍鬼」ヨミは武器も持たず、ただ話をしに来ただけらしい。

 ウリンは煉の肩に手を回し、ニヤッと笑う。


「すでにグループは決まってる。俺とお前は別の組だ。こんな初戦で負けたら許さねぇからな。俺との決着をつけるまで負けんじゃねぇぞ」

「あたしは、コノハちゃんと同じ組よぉ。仲良くしましょ」


 どうやら二人は、煉とコノハに対して宣戦布告しに来たようだ。

 二人を煽るために、ウリンとヨミの体から魔力が溢れだしている。

 それに感化され、二人は獰猛な笑みを浮かべた。


「猛犬風情が、いい加減首輪つけて飼ってやるよ」

「お姉さんなら、少しは楽しめそうだね♪」


 誰もが戦闘狂で、餓えた獣のような目をしていた。

 ぶつかり合う魔力にクレアの家が悲鳴を上げる。


「喧嘩なら、外でやんな! あたしの家を壊したらただじゃおかないよ!」


 クレアの一喝により、四人の魔力は消えた。

 用が済んだ二人はクレアの家を後にする。

 その際、ウリンが煉へと忠告を残していった。


「おい、レン。お前の組、かなり荒れるぞ。『剣聖会』に自称『神の使徒』だ。あんま油断して、足すくわれんじゃねぇぞ」









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