幕間
第78話 龍の国にて
東の果て、巨大な山脈に囲まれた秘境の国。
そこは龍王の治める平和な国として有名で、安住を求めて移住者が絶えないと噂されるほど。
まさに理想郷。名を――――龍王国エルドラド。
首都ヨルムンガンドに佇む白亜の城。その玉座の間にて龍王は来客の応対をしていた。
「――――ほう。つまり、妾に頭を垂れ軍門に下れと申すか」
「そのような解釈は間違いでございます! 私めはただ、あなた方龍族の方にも我らが主を奉る心をお持ちになっていただきたいだけでございます! ええ、誇り高き龍族の方々であれば、そう捉えられるのも無理はありません。しかし、神はそれを望んでおられません! 共に! 世界の安寧のためにと、神は仰せでございます!!」
大仰な身振り手振りを加え、そう叫ぶのは翼を生やした男。
神聖な雰囲気を纏い、周囲に神気を振りまくのはまさしく天使だった。
おかしなところがあるとすれば、髪の色が七色に光、変化していることだろう。
「痴れ者が! 龍王様に対して不敬であるぞ!」
「よい、ミズチ。そのような道化にいちいち目くじらを立てては面倒じゃ」
「しかし、陛下!」
龍王のそばで苦言を呈する青い髪の美女――――ミズチ。
龍王が最も信を置く側付きであり、唯一の友である。
「カカカ。なあ、陛下。こいつ、殺っちまった方がいいんじゃねぇか? なんなら俺に任せてくれりゃいいんだがよ」
「オロチ! あなたも陛下に対し不敬ですよ! 態度を改めなさい!」
「ホホホホホ! 私めを? 殺すと仰せで? これはこれは! 愉快なことを仰せだ! 『平和』を司るこのメルキセデクを殺すとは! ホホホ、愉快愉快」
そう言って大きな笑い声をあげた。
その様子にオロチと呼ばれた男が青筋をたて、背負っている大剣に手をかけた。
「やめよ、オロチ。そこな愚物を相手にするなど時間の無駄じゃ」
「ホホッ、時間の無駄と仰せですか。龍王ともあろうお方が、立場というものを弁えていないとは」
「お主こそ、立場を理解しておらぬようじゃな。お主の言う通り、妾は龍王。この世全ての頂点に君臨する者!どこの愚か者か知らぬが、妾を従わせようとするのであれば、己が力を示せ! 貴様のような道化に用はない! 疾く失せよ!!」
「っ!? 我らが神を侮辱するとはっ! その言葉、後悔しても知りませんよ! いずれあなたに神罰が下ることでしょう!!」
「黙れ。神がどうした! 不遜な神など恐るるに足らず! 妾の前に立ち塞がるのであれば、我が最強の牙をもって蹂躙してくれよう!!」
龍王はそう言うと、覇王の魔力を開放し威圧した。
メルキセデクは悔し気に顔を歪め、そのまま光となって消えた。
「ふぅ。面倒な奴が現れおったのぉ」
「お疲れ様です、陛下。お茶をお淹れしましょう」
「すまぬな。甘い菓子もあれば妾は嬉しいぞ」
「わかっておりますとも。少々お待ちを」
さっきまでの威厳はどこへやら、見た目相応の少女のような顔をしておねだりをする龍王。
オロチは呆れた顔で見ていたが、一瞬で目つきを変え大剣を構えた。
「そこにおるのだろ。姿を見せよ。盗み聞きなど趣味が悪いぞ」
「――へぇ、完全に気配を断っていたのに、よくわかったもんだなぁ」
「このような形でそなたと相まみえるとはな。何用じゃ――――大剣豪」
玉座の間に姿を現したのは、浴衣姿に「鬼」の羽織を掛けた男、SSランク冒険者『大剣豪』ゲンシロウだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます