第77話 おかしな報告

 数日後、街は大氾濫などなかったかのような喧騒に戻った。

 しかし、煉の活躍は皆の記憶に焼き付いていたようで、街を歩くと人に囲まれるようになった。

 変わらず顔を隠して行動しなければならない煉であった。


「ったく、ギルドに来るだけでも一苦労だな」

「仕方ありませんね。この街にとってレンさんは本物の英雄ですから」

「映像玉なんてものがあるなんて知らなかったんだ。そんなものがあるならもう少しやり方を」

「何があったって、結局はこうなっていたと思いますよ。レンさんなら」

「……確かに」


 イバラにそう言われ、煉は押し黙る。

 仕方ないと割り切り、煉は次の目的地について相談することにした。


「さて、次はどこに向かうか」

「今後も目的は死界の攻略になるのですよね。それなら付近の街に向かうのが妥当かと」

「つっても、死界の付近に街があるところなんて……いや、一つだけあったな」


 と言って、煉は地図の一点を指さした。


「『霧の都』、ですか? ここって」

「そうだ、教国と隣接している唯一の自治都市。別名冒険者の街とも呼ばれている。この街なら俺が普通に歩いていても問題ないしな」

「そうですね。でも、結構距離ありますね。馬車を乗り継いでも一か月くらい……それに途中で教国に入らないとですね」

「まあ、少しくらい観光しながらでもいいだろ。死界を目指しているんだ。それくらいの余裕はあった方がいい」

「レンさんの言う通りですね。急ぐ旅でもありませんし。ええと、それでどの死界に行くんですか?」

「ああ……『幻死の迷森』だ」

「――――そこに向かうのかい? だったらちょうどいい。君たちの耳に入れたいことがあってね」


 その時、煉の後ろから声をかけてきた人がいた。

 座ったまま振り返り、その人物を確認する。


「ギルマスじゃん。なんの用だ?」

「お疲れ様です、マスター。やつれましたね。それに話し方も」

「……わかるかい、イバラ君。君たちのおかげで、僕の仕事が終わらないんだよ……。アイデンティティを捨てるほどにね……。それにおかしな報告も入ってきたし……」

「おかしな報告ってなんだよ」

「それを君たちに話そうと思って。僕の部屋に来てくれるかな」


 ここでは話せないことだと察し、煉たちはギルマスに付いていった。

 受付嬢がお茶を淹れ退室したところで、ギルマスが話を切り出した。


「おかしな報告というのは二つあってね。一つは君たちの行く場所には関係ないが、世間に知られれば世界規模で騒ぎになるレベルの話だ」

「なんだよそれ。そんなの俺たちに話していいのかよ」

「もしかしたら関わることになるかもしれない。知っておいて損はないよ。一つ目、まあ、簡潔に言えば『大剣豪』と『龍王』が争った、という話だ」


 聞き覚えのある名前に、煉は目を見開いた。

 イバラも煉と同じように驚愕の表情を浮かべ固まっていた。


「……あ、争ったって、どういう……」

「そのままの意味さ。世界最強の剣士と世界の頂点に君臨すると言われる龍王、その二人の戦闘があったということだよ。その意味、君たちも理解できるだろう?」


 煉は以前、クレアから聞いたことがあった。

 SSランク同士が争った時のことを。

 数十年前にも一度あったらしい。その時は……。


「確か、街が一つなくなったとか……それくらいヤバイことだって」

「ああ、その時は止めてくれる人がいたし、加減もしていたそうだ。今回は違う。お互い死にはしなかったが、本気で戦ったらしい。どうなったと思う?」

「どうなったって……」

「――――島が一つなくなったんだよ。文字通り、ね」

「「!?」」


 煉の予想をはるかに上回るレベルの争いになっていたことに言葉も出なかった。

 それ以上に、ゲンシロウがそんなことをするのか、と疑問があった。


「もちろん、経緯は知らない。だが、そんな争いがあったことは知っていてくれ。そしてもう一つ。こちらは君たちにも関係するだろう。

 さっき『霧の都』に向かうと言っていたね。その途中にある教国、その首都の聖教会にて、かの『死神聖女』が現れた。

 そのことで教会本部は大混乱。大司教と司教数人が首を刎ねられ殺害されたり、重要な古書の類が盗まれたり、教国は厳戒態勢を敷いている。

『死神聖女』にも気を付けてほしいけど、変な騒動に巻き込まれて神敵認定されたりしないでくれ。これは僕個人からのお願いだ」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る