第76話 事態終息

「――――英雄たちよ! よくぞ、街を守ってくれた! 王として礼を言う」


 あの後、街に戻った煉たちは謁見の間へと集められた。

 玉座の前にて、勇者や指揮官の将校たちは跪き、王の言葉を厳かに受け取っていた。

 もちろん煉とイバラは……。


「……あ、阿玖仁君? 一応、陛下の前なんだから、マナーくらいは……」

「知らん。別に王に依頼されたわけじゃない。俺はひとりの冒険者としてただ魔獣を燃やしただけだ」

「本来なら不敬極まりないですけど、今回はレンさんの言う通りですね。冒険者は自由なんです。国に縛られる必要もないですから」


 と言って、面倒くさそうにしている二人。

 煉に至ってはあくびまでしていた。

 周囲の貴族から煉に向けて野次が飛び交っている。

 その煉の態度に、さすがのギルドマスターもオドオドしていた。


「れ、レン君。ここは従ってくれた方がギルドのためになるのだが、いかがかね?」

「マスターがいれば十分だろ。俺は伯爵に用があってここに来たんだ。さっさと終わらせてほしい」


 もちろん煉の言葉は玉座にいる王まで届いていた。

 王は何とか表情を変えずに堪えていたが、こめかみがピクピクと反応していた。


「ま、まあよい。此度の功労者である『炎魔』レン・アグニよ。そなたに褒美を取らせよう。そなたは何を望む?」

「何って、別に今欲しいモノとか――」

「今回の働きに見合った金額と大図書館の全書物閲覧許可を」


 煉が何かを口にする前に、イバラが報酬を提示した。


「イバラ?」

「貰えるものはもらっておきましょう。これくらいなら王も差し出してくれるでしょうし」

「うむ。それだけでよいのか?」

「構いません」

「あい、わかった。かの者らの望む物を与えよう。これにて此度の謁見は終了とする。皆、大儀であった」


 周囲の貴族らも跪き、退室していく王を見送った。

 そして、各々で今回の大氾濫で出た被害の補填を話し合っていた。

 そんな中、煉はある人の下へ真っ直ぐに向かっていった。


「エンキィ伯爵。話がある」

「……ああ、私も君たちに話したいことがあったんだ。部屋を用意しよう。付いてきたまえ」


 伯爵は煉に背を向け歩き出した。

 その後ろを煉とイバラはついていった。



 ◇◇◇



 向かったのはエンキィ伯爵邸。

 煉とイバラは応接間に案内され、座って待っていた。


「待たせたね。君たちに見てもらいたいものがあったんだ」

「なんだそれ。絵、か……?」


 伯爵が持ってきたのは二枚の肖像画。

 それをテーブルの上に広げ、煉たちに見せた。


「これは連れ去られた娘たちの肖像画さ。こっちの気の強そうな子が姉のペルシア、もう一人の本を抱えた大人しそうな子が妹のアンナ。何か感じないかい?」


 二人はそう問われ、肖像画をまじまじと見つめる。

 難しい顔をして唸っていると、イバラが声を上げた。


「レンさん、この人たちって……」

「いや、全然わからねぇ。どうした?」

「天使ですよ。後から現れた二人組の」

「……………言われてみればどことなく似ているような」

「そう。イバラ君の言う通り。こちらも映像で確認した。君たちの前に現れた二人の天使、あれはおそらく私の娘たちで間違いない」


 その時、煉は伯爵が拳を強く握りしめていることに気づいた。


「あのような姿で、再び見ることになるなどっ……! 私は……私はっ!」

「悔しいのは分かる。俺も同じ気持ちだ。あいつに何があったかは知らないが、美香を変えた奴が確実にいる。そいつは俺の手で、必ず、焼き尽くしてやるっ!!」


 煉も怒りの感情を露わにした。

 その怒りの矛先は、正体の曖昧な神に向けられている。


「伯爵、天使化について知っていることを教えろ。足りない分は自分で見つけに行くが、今わかることは知っておきたい」

「もちろんだとも、少し長くなるが構わないかな」

「ああ、それくらい問題ない」


 疲労の溜まっていたイバラを先に休ませ、二人の話し合いは夜更けまで続いた。










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