第201話 女帝の歓待
扉の先は、華美な装飾が細部にまで施された大広間。
大理石でできた床に天井に備え付けられた魔灯の光が反射し、異様な明るさを保っている。
扉から真っ直ぐに敷かれた赤い絨毯の先には玉座がおかれていた。
その玉座に座る黒いドレスを纏った少女は、頬杖を付きこちらを見ている。
『――よく来たね。この宮殿の主として歓迎するよ』
幼子のような無邪気な声が、頭の中で鳴り響く。
一種の念話のようなもので話しかけているようだ。
よく見ると、少女の姿はどことなく透けている。
『さて、自己紹介でもした方が良いのかな』
「いらない。こんな面倒な誘い方で何の用だ? 古代シアリッラの女帝セラミリス」
『ふーん。私のことは知っているんだね。それなりに知識はあるみたいで何より。君の目的はなんとなくわかるよ。私の叡知が欲しいんだよね? あげてもいいんだけど……君では古代魔法は扱えないようだ。それは別の子にあげるとしよう。他にもいろいろな知識があったよ。例えば――神を自称する愚か者について、とかね』
想像通りだ。
おそらくあの神殿に残されていた石像にも関わる話があるのだろう。
しかし、気になることが一つある。
「……あった?」
『そう。それは過去の話だ。いつだったか忘れてしまったけれど、君の前にもう一人、ここに足を運んだ子がいるよ』
今まで誰も到達できなかったと言われる空中庭園に、俺より前に来たことのある奴が居たのか。
その人物はなんとなく想像できる。
「……大賢者、か」
『うんうん。頭の回転が速い子は嫌いじゃないよ。私の持っていた愚か者たちの知識は、全て大賢者君にあげてしまった。だから、今の私の中には残っていないよ。残念ながらね』
「ないと言うのなら、諦めるしかないだろうな。だが……それだけじゃないんだろ?」
『……ふふっ。本当に君は賢いね。一から説明する手間が省けて助かるよ』
「わざわざ俺たちを分断する必要があったんだろ。その中でも俺に用があった。何が目的だ?」
『簡単な話だよ。君の力が、奴らに届き得るのか確かめたいだけさ。どうやら今のところは不完全みたいだけど、いつか開花する可能性を見たい』
「……もし、その可能性が無かったら?」
『その時はもちろん――死んでもらうさ』
女帝は玉座から立ち上がり、禍々しい形状の黒い杖をどこからか取り出すと、突然重苦しい魔力が部屋全体を支配した。
膝をつきそうになるのを堪え、顔を上げる。
自分の体よりも大きな杖を構えた女帝は、優美な笑みを浮かべ楽しそうにしていた。
殺意むき出しの魔力に自然と恐怖を感じてしまうが、不思議と俺の口元も吊り上がっていたみたいだ。
相手は古代の魔法使い。対して今の俺は魔法が使えず、刀一本しかない魔法士。
絶望的な差に思わず笑いがこみ上げてくる。
『楽しそうだね。思う存分――足掻いてみなよ!』
◇◇◇
煉が宮殿の玉座にて女帝と争っていた頃、空中庭園の結界外に数百の天使が集っていた。
隊列などお構いなしに、結界に向け槍を突き付けている。
どうやら、空中庭園への侵入を試みているようだが、上手くいっていないようだ。
「……ちまちまと……うぜぇなぁ!」
「姉様。言葉が汚いですわ。我々熾天使は下位の天使たちの手本とならなければなりません。もう少し慎みをお持ちくださいな」
「あたしには無理だっつの! それより、早く暴れたくてうずうずしてんだよ」
「結界のほころびを作れればすぐにでも……どうやらできたみたいですね。――姉様」
「おうさ――っ!!」
天使たちが槍でつついて生み出した、小さな結界の綻び。
それに向かってウリエルは自身の力を込めた拳を叩き込む。
すると、空中庭園んに掛けられていた結界がひび割れ、大きな音と共に崩壊していく。
今まさに、不可侵の結界は破られた。
「さあ、行きましょう。神の鉄槌を下す時です」
「少しは楽しませてくれよなぁ……アグニ・レン!!」
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