第130話 精霊樹
花畑の奥にあったのは、見上げてもまだ天辺の見えない巨木。
その木自体が光を放ち、周囲を明るく照らしている。
感じるのは膨大で暖かく清らかな魔力だった。
魔族がいると踏んでいた三人は、少し拍子抜けしたように目を丸くした。
「…………でっかい木だな。天辺が全然見えねぇや」
「これは……もしかして精霊樹じゃないですか?」
イバラが巨木を見上げそう言った。
精霊樹を知らない二人はお互いに顔を見合わせ首を傾げた。
同じ動きで首を傾げる二人を見て、イバラはため息を吐きながら説明する。
「はぁ……いいですか? 精霊樹っていうのは、一本しか存在しないと言われている世界樹と繋がっている神聖な樹なんです。発現理由は知りませんし、文献では諸説あります。そして名前の通り、精霊を産み落とすと言われています。世界樹を守護するエルフ族にとって、精霊樹はかなり神聖なモノとされているのです」
「「へ~」」
イバラの説明を真面目に聞いてはいるが、二人ともいまいちピンと来ていないようで、空虚な相槌を打った。
そんな二人を置き去りにし、イバラはさらに話を続ける。
「精霊樹とは意外とどこにでもあるのです。しかし、滅多に見つけられることはできない。なぜなら、精霊樹を守るために樹の側には必ず精霊が存在するんです。この樹を見つけることができる人は限られ、運のいい人、精霊使い、エルフ族、精霊に好かれる人など、一般的に目に触れられるものではないんですよ。それがこんなところにあるなんて……ってちゃんと聞いてますか?」
「いや、聞いてるって。それよりもさ、ほら」
「どうしたんですか?」
話を聞かず違う方向を見ている二人に詰め寄ったイバラだが、煉に諭され同じ方向に目を向けた。
そして驚愕に目を見開いた。
精霊樹の下に、光が集まり人の形に変化していく。
光が収まり、その姿が完全に目に見えた瞬間、三人は言葉を失った。
姿を現したのは、紛れもない精霊そのものだったのだ。
光り輝く金の髪に少し幼い風貌、神聖な魔力を垂れ流しそれが精霊であることを確信させる。
その精霊はふわふわと浮き上がり、煉たちの元へとゆっくり飛んできた。
「……この場所に、意識を保ってきた人間は久しぶりだわ。あなたたちは惑わされなかったのね」
神々しい見た目に目を奪われるだけでなく、澄んだ綺麗な声に耳さえも魅了される。
煉は言葉も出ない二人を置いて、まずは精霊と会話することにした。
「あんた……精霊だよな? これはあんたの仕業じゃないのか?」
「こんな趣味の悪い事するわけないじゃない。確かに人間たちの間では精霊はいたずら好きって言われているし、それも間違いではない。けれど、これはさすがに度を越しているわ。私の作り上げた聖地を穢す行いよ。許せない」
「そうか。安心したよ。ちゃんと他に元凶がいるんだってことにな。さすがに精霊を斬るのは心が痛む」
「ふーん。あなた、罪深き叛徒の一人ね。彼が言っていたことは正しかったみたいだわ」
「彼?」
精霊の言葉に引っかかりを覚えた煉は、聞き返した。
「彼」という言い方。前にもこの場所に来たことがある人間がいるということ。
それがもしかすると、煉の求めるものかもしれないということに期待が高まる。
そして精霊は告げた。
「私は精霊王よりこの地を預かった大精霊ミユ。歓迎するわ、『憤怒』の継承者さん。貴方には私の願を叶えてほしいの。そのお返しとして、彼の――――――大賢者の伝言をお伝えします」
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