第93話 教国の闇

「――――それで、私はどうして呼び戻されたんですか?」


 煉の部屋の扉の前でイバラが腕を組みながらそう言った。

 イバラの方には小さな赤い鳥が留まっている。

 煉の魔法によって創造された連絡用の魔法生物だ。

 そんなイバラの前には、神妙な顔をしてテーブルに手をついている煉とアイトの姿があった。


「良く戻ってきた、イバラ君」

「これから私たちの今後について話し合おうと思うんだ。君も座りな」

「――――そういうのいいですから。わざわざこんな鳥さんまで生み出して私を戻したんですから、重要な話なのは分かっています。そんな雰囲気づくりは必要ないです」

「「………………」」


 二人は目を合わせ残念そうな顔をしていた。

 イバラが乗ってくれないことに少しショックを受けているようだった。


「……まあ、いいや。それ、飯だろ? 食べながら話そう。お茶淹れてくれ」

「はい。アイトさんの分もありますからね」

「おう。ありがとさん」


 イバラが席に着いた頃を見計らって、アイトがテーブルの上に「タンサ君」を置いた。


「これって、レンさんの……?」

「これは俺が作った魔道具さ。超遠距離探知機、名付けて『タンサ君』だ!」

「………………名前は置いといて、これは何ができるんですか?」

「名前には触れてくれないのか………………」

「名前の通り、超遠距離でも人やモノを見つけられることができる。モノに宿る魔力を判別してそれが今どこにあるのかを教えてくれるそうだ」

「へえ。すごいですね。それで、何か問題でもあったんですか?」


 イバラがそう聞くと、煉は少し険しい顔つきになった。


「マリアを見つけることができた」

「それは良かったです。これで依頼も達成ですね」

「それ以上にやばいものを見つけたかもしれない」

「やばいもの…………ですか?」


 煉は先ほどの画面をイバラに見せる。

 イバラはそれを見て、何が表示されているのか理解できず首を傾げていた。


「えっと………………」

「まず、赤が検索対象を示す表示だ。ひと際強く違う色が混じり合っている点がマリアだ。もう一つ、この街の中心にある強い点。それはおそらくこの国の聖王だろう。隣にある聖王より大きな点については不明。

 問題は国を覆うドーム状の魔力だ。国の端から首都に行くほど色は濃くなっているのがわかるだろ。憶測でしかないが、魔力の供給量に差が出ているだけだと思っているが……」

「もしかすると、違う意味があるかもしれないということですね。それはレンさんが感じているモヤモヤと何か関係があるのですか?」

「ある、と思う。おそらく何らかの結界で、俺がそれに反応してしまっているのだと思う。詳しいことは調べてみないと分からない。

 ただ一つ言えることは、この結界は良いモノじゃない。国の地下に表示されている点があるだろ?」

「この光っては消えていく点ですね」

「そうだ。俺の推測が正しければ……この結界は魔力をもつ何かを消費して維持しているんだ」

「何かって……――まさか」


 はっとした表情でイバラは煉を見た。

 その目は名も知らない誰かに対する嫌悪感で染まっていた。


「俺もそう考えた。あいつの言っていたこの国の闇ってのはこれの事かもしれない。詳しいことは知ってるやつに聞きに行こう」

「わかりました。すぐに行きますか?」

「ああ。逃げられたら困るからな」

「行くって、どこに行くんだ?」


 アイトだけご飯に夢中で二人の会話を聞いていなかった。

 煉はため息を吐きながらもアイトに行き先を告げた。


「もちろん――――聖女様のところさ」







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