第321話 アルカンの話
「単刀直入に聞こう。君たちも古代遺跡の探索に来たのかな?」
「あ、いや。別にそういう目的があってきたわけじゃないんだが……」
煉がそう言うと、アルカンは頭に疑問符を浮かべ首を傾げた。
古代遺跡の探索以外で冒険者がセトを訪れることはほぼないと言える。
それだけ、セトという国には古代遺跡くらいしか魅力がないのだ。
「では、君たちは何をしに来たんだ? この国に住んでいる人間が言うのも何だが、観光名所なんて他にないぞ」
「事情があって……砂漠のど真ん中に飛ばされたというか、たまたまセトの近くにいたと言うか……」
「? ますますわからんが、難しいことは気にしないでおこう! とにかく、この国に来たのだから古代遺跡の探索はするのだろう?」
「それはもちろん。せっかく来たのに何もしないわけにはいかないな」
煉の言葉に合わせ、イバラとアイトも頷く。
二人も古代遺跡には興味があった。
「冒険者たるもの、そうでなければな! ……だが、いささか時期が悪かったな」
笑みを浮かべていたアルカンが、唐突に神妙な顔つきに変わった。
「時期?」
「ああ。毎年この時期になると、サンドワームという魔獣が暴れまわる。奴らは砂の中を自在に動き、砂の上を歩く人間に奇襲を仕掛けてくる危険な魔獣だ。その上、この時期の砂漠は一年で最も過酷な環境だ。暑さで集中力を欠き、サンドワームに襲われて命を落とす者も少なくない。いかに君たちが強かろうが、砂漠に慣れていなければ、危険度は上がる。一応忠告しておこう」
「サンドワームね。気を付けるよ」
アルカンの忠告を頭に入れ、煉は頷く。
話が終わったと三人は立ち上がるが、アルカンは声をかけて止めた。
「……正直、この話は君たちに言うべきじゃないのかもしれない。だが、古代遺跡を探索するというのであれば、君たちも知っておいた方が良いだろう」
「何だよ、もったいぶって」
「レンさん、私としては聞かない方が良い気が……アルカンさんの表情から、面倒事の気配がプンプンと……」
「同感。なんか嫌な予感がする。レン、わ、わざわざ古代遺跡の探索に行かなくても……」
「そうだな。古代遺跡に関わらないというのであれば、この話をする必要はなくなるな。何せ、セトの上層部ですら取り扱いに困っていることだからな。だが、仮にもSランク冒険者である君が協力してくれるというなら、こちらとしても嬉しい限りだ」
「れ、れれれ、レンさん! やっぱりやめましょう! 早くこの国から離れましょう!」
「そ、そうだぞ、レン! 無理することはないもんな!」
国の上層部が取り扱いに困っている問題。そう聞いて、イバラとアイトは取り乱す。
死界の攻略からまだそう時は経っておらず、外に出たと思えば砂漠で歩き詰め。
休息が取りたいことだろう。それも踏まえ、レンは少しの間思案する。
「確かに、お前らの言い分もわかる」
「「レン(さん)……!」」
「とりあえず、話は聞こう。決めるのはそれからだな」
「「なんでだ!!」
揃って声を上げるイバラとアイト。
拒否してくださいと言わんばかりに首を横に振っている。
反面、アルカンはホッとしたような、少し嬉しそうな表情を浮かべた。
「そうか。君の冒険者としての心意気には感服するぞ」
「あ、いや。そういうんじゃないから」
「は?」
「単にあれだけもったいぶって気にならないわけないだろ? とりあえず話は聞く。面白そうなら依頼として受けるが、そうじゃないなら関与しない。ただ古代遺跡の探索に向かうだけだ」
「な……何とも我儘な。まあいいさ。古代遺跡に向かうというのなら、話すべきだろう」
一呼吸置き、アルカンは続けた。
「数年前から、古代遺跡を拠点に盗賊団が棲みついていた。しかし、ここ最近奴らの勢力に変化が起きた。三巨頭と言われていた内の一つ、『金砂の魔蠍』が壊滅。頭目が入れ替わり、他の盗賊団との争いが激化した。幸いまだ古代遺跡に被害はないみたいだが、それも時間の問題。もし、奴らを見かけたら捕縛。もしくは――討伐を頼む」
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