第320話 いつものこと
砂漠のオアシスにして、砂の大国セト。
中心には大きな泉。その周囲を囲むように街が作られている。
国民の総人口は万に満たないほど。しかし、世界では大国と称される。
その所以は、広大な砂漠とその砂漠に隠された未探索の古代遺跡にある。
大陸の半分を覆うほどの砂地は全てセトの領土である。それに付随して砂漠の中にある古代遺跡も全てセトの物だ。
未探索の古代遺跡から発掘される宝物や知識、それらの価値は計り知れない。
だが、セトはそれを自国で独占しようとはしなかった。
あえて世界中に周知させることで、人を集める広告塔と化したのだ。
その効力は絶大。
探求心溢れる冒険者が、好奇心溢れる研究者が、商魂逞しい商人が、それぞれ利益を求めセトへと訪れた。
目的は、古代遺跡探索による富、名声、叡知。
多くの人々が、砂の大国に夢を見た。
今では逆に人が集まり過ぎたことで数々の問題を抱えているが、本来の目的は果たされている分、ウィンウィンといっても過言ではない。
砂の大国に、永遠の繁栄を……――。
「……ってわけだけど。どうする?」
「どうする、とは?」
「俺たちも古代遺跡探索しに行くか? 古代遺跡って聞くと、何となく冒険心をくすぐられるよなぁ」
「はぁ……私としてはレンさんの行く道についていくだけですから、どちらでも。こういうのは、アイトさんの方が興味あるのでは?」
と、何気ない会話から話はアイトに回ってきた。
二人の視線を受けたアイトは、呆れた表情で溜息を吐き、煉が腰かけているモノを指さした。
「……そういうのはさ、もう少し落ち着いてから話さない? ほら、下の人たちが恨みがましい目で煉を……」
「あ? はぁ……あんだけやったのに、まだ懲りないかなぁ」
煉も深い溜息を吐き、面倒そうに呟いた。
三人が居るのは、冒険者ギルドセト第一支部。
第一支部と銘打ってはいるが、この砂漠の地に冒険者ギルドは一つしかない。
そして、煉の椅子代わりにされている数人の男たち。
彼らはギルドに入ってきた煉たちに絡んできた冒険者だ。
つまり、いつもの事である。
「クソガキが! どきやがれ!!」
「おっさんさぁ、酒飲んでるからって人に絡むのはやめとけよ。こうやって痛い目見るかもしれないんだからさ」
「誰がおっさんだ! 俺はまだ三十六だ!!」
「……ギリギリおっさんじゃね」
「何とも言えませんね……」
「俺的にはアウト!」
「クソガキども……っ!」
怒りに顔を赤くするギリギリおっさん冒険者。
こんなことをしていれば、注目を集めるのは当然で、受付の奥からガタイの良い肌黒の大男が出てきた。
「ハッハッハ! 元気があるのは良い事だ! 冒険者はこうでなければ!」
「ゲッ……ギルマス……」
「アルバスよ、また女に振られたのか? ヤケ酒の上に絡み酒とは迷惑極まりないな! ガッハッハッハ!!」
「うっせぇ! いいからこいつらどうにかしろ!」
「おっと、そうだったな。少年たちよ。私はここのギルドマスターアルカンだ! アルバスは酒癖も悪いが女の趣味も悪い。だが、根は良い奴なんだ。許してやってくれ。ちなみに、俺の弟でもある!」
「てめぇ! 余計なこと言うんじゃねぇ!!」
周囲から笑い声が上がる。
ギルドマスターが姿を現しただけで、ギルド内の雰囲気が一変、和やかになった。
周囲の視線や言葉を交わしただけで、彼の人柄を感じられる。
煉はアルバスから降り、ギルドマスターと対面した。
「少年たちよ、名を聞こう」
「私は、イバラと申します」
「アイトです」
「俺は――」
「君のことは知っているぞ。深紅の髪に炎の紋様、やる気の無さそうな見た目。うむ、噂通りだな!」
「やる気の無さそうな見た目は余計だ……」
アルカンは大笑し、煉の肩を叩いた。
「ようこそ、セトへ! Sランク冒険者『炎魔』レン・アグニとその仲間よ! ギルドマスターとして君達の来訪を歓迎する!!」
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