第322話 サンドワーム

 ギルドでアルカンの話を聞いた翌日、煉はひとり砂漠に来ていた。


 イバラはソラの散歩ついでに街で食料品などの補充と情報収集。アイトは、宿に籠りしばらくできなかった魔道具制作をしている。

 先日、一通り街を歩き回った時、珍しいものを大量に見つけたことで、アイトの職人魂に火が付いたようだ。


 そんなこんなで暇を持て余した煉は、ギルドで適当な依頼を見繕い、砂漠にやってきたというわけだ。


「……とはいえ、依頼がワーム討伐しかないしなぁ……」


 砂漠で採取依頼を出す者は滅多におらず、討伐するような魔獣もそういない。

 古代遺跡での調査や研究者の護衛依頼などはあるが、それらは暇つぶしで受けるようなものではない。

 消去法でサンドワームの討伐依頼を受けるしかないというわけだ。


「サンドワーム五体討伐。報酬は金貨三枚。超過数一体につき大銀貨一枚上乗せ、って大分高単価な依頼じゃん。なんで、誰も受けようとはしないんだろうなぁ……」


 煉の言う通り、高単価な依頼だ。

 サンドワーム自体素材になるような魔獣ではないが、討伐するだけで大金を得られる。

 それだけ、セトという国では害獣扱いされ嫌悪されているからだ。


 しかし、誰も依頼を受けないのは当然――討伐難易度が高いから。

 常時Aランク設定で、この依頼を受けられる冒険者も限られる。

 その上、砂漠という環境での戦闘において、サンドワームは脅威極まりない。

 巨大な体躯で地中を高速移動。何本もある触手。溶解液に毒霧。鋭利な二本の鎌を振り回す虫。姿を見るだけで発狂する人も現れるそうだ。


「二本の鎌って、カマキリかよ。ワームとか言うからイモムシじゃないのか」


 サンドワーム討伐における重要な点は、サンドワームを砂中から引きずり出すことができるかどうか。

 砂の中にいては、攻撃することもままならない。


「ま、とりあえずギルドで教えてもらった通りやるか。――お?」


 煉の前方で砂塵が待っている。

 人のような小さな影が四つ。どうやら何かから逃げているようだ。


「早速来た」


 久しぶりの魔獣との戦闘。

 楽しそうに獰猛な笑みを浮かべる。

 先頭を走る男が煉の存在に気づき、声を張り上げた。


「おい、君! ボーっとしてないで逃げろ! 最悪だ……サンドワームが同時に三体なんてっ! 神に見放されたような気分だ……」

「あの子、どこかで……」

「今、そんなこと言っている場合じゃないわ! 少年、逃げてー!」


 呆然と立ち尽くしていると思ったのか、逃げる冒険者たちが一様に叫ぶ。

 だが、彼らの忠告を無視し、煉はゆっくりと歩を進めた。


「何をして……君は馬鹿か!? こっちに来るんじゃなく、逃げるんだよ!」

「――生憎と、俺はこいつらを討伐しに来たんだ。三体も同時? ははっ。初っ端からツイてるな、俺」


 そう笑って、煉は地面に右手を付いた。

 四人の冒険者が煉の横を通り過ぎると……。


「――〈噴炎ヴォルカン〉」


 地中から噴き上がった炎の柱が、三体のサンドワームを砂中から打ち上げた。

 初めて見るサンドワーム。

 カマキリのような姿に八本の奇妙な足。羽が無い代わりに背中に無数の触手。

 カマキリと同じ頭をしているが、口だけはイモムシという歪さ。


「うわぁ……キモっ。討伐証明は頭とか言ってたっけ? これ持って帰るとか嫌なんだけど……魔石で何とかしてくれるかなぁ」


 空に打ちあがったワームに手をかざす。

 すると、ワームの周囲を囲むように小さな炎の玉が出現。

 煉はかざした手を握った。


 炎玉から槍が飛び出し、サンドワームを串刺しにした。

 奇怪な雄叫びを上げ、サンドワームの体は炎上していく。

 後に残った魔石が砂漠に落ち、砂塵が舞う。


「ごほっ、げほっ。い、いっちょあがり……」




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