第6話 嫌疑

ある日の朝のこと。


煉は複数の気配が近づいてくることを感じ、目を覚ました。

足音からかなり急を要する用事だとわかる。

面倒だとは思いつつもどうせ巻き込まれるだろうと考え、煉は着替え始めた。

するとノックもなしに扉が勢いよく開かれた。


「アグニ・レン! 貴様にある嫌疑がかけられている。大人しく同行願おう」


まさかの物言いに、煉もそれはさすがに予想外だと顔を顰める。

しかも兵士に囲まれ槍を突き付けられるおまけ付き。


「……ノックもなしにいきなりだな。失礼じゃないのか」

「ここで貴様の話を聞く義理はない。弁明があるなら陛下の前でしろ」

「穏やかじゃないなぁ。一体なんだって言うんだよ?」

「それも全て陛下から直々にお話しされるだろう。貴様は黙ってついてくればよい」


願う、とか言っておきながら強制じゃねぇか。と煉は思ったが、口にすることはなかった。

言葉にしたら余計面倒なことになると思ったからだ。


「はいはい、了解しましたよ。だが、せめて着替えさせてくれ。こんな格好じゃ、皇帝様に失礼だろ?」

「…………早くしろ」


煉は兵士の言い方に肩を竦めた

どうしてそんなに睨まれなければならないのか、不思議で仕方がなかった。

大きなため息を吐き、煉は制服に着替え兵士に従ってついていった。



◇◇◇




「――それで? これは一体何の冗談だ?」


皇帝の前まで連れてこられた煉は、両手を拘束され膝をつかされている。

まるで犯罪者そのものだ。

煉は思い当たる節がないと言い抗議したが、聞き入れてはもらえなかった。


「余も其方を拘束するのは忍びないのだが、止むにやまれぬ事情があるのもまた事実。其方から話を聞く間は我慢していただきたい」

「何もしていないのに犯罪者みたいに扱われるのを我慢しろと? 随分理不尽なことをしているんだが、自覚はあるか?」

「不敬なっ! 陛下に対してその物言いはなんだ!」

「無礼であるぞ!」

「しらばっくれんじゃねぇぞ!」

「お前がやったことは分かっているんだからなっ!」

「しらを切るつもりか」

「……愚かな」


(外野がうるせぇな。何なんだよ)


玉座の間には皇帝とクラスメイトたち、そして近衛騎士と数名の貴族がいた。

口々に煉を非難する貴族やクラスの男子。

女子は遠巻きに見ているだけだったが、その視線には侮蔑の感情が混ざっていた。

しかし、見慣れた美香の姿はなかった。


(こんな時に美香はいないし、話が見えないし、一体なんだ)


「静粛に。陛下の御前ですよ」


皇帝の横に立つ宰相が場を収める。

部屋に静寂が訪れたことで皇帝が口を開いた。


「余も話を伝え聞いただけなのだが、其方が城で働く女たちに不貞を働き、あまつさえ仲間にも手を出そうとしたとな。これは真か?」

「はぁ? 何の話――」

「本当です! わ、わたし……彼に襲われそうになって…………それで…………」


煉の言葉をさえぎって涙を流した女生徒が前に出てきた。


(あれは確か……上野、だっけ? 確か勇者の取り巻きだった気が)


涙ながらに訴えるその姿に心を打たれ、クラスメイトたちはさらに煉を非難した。

それに便乗するかのように貴族や騎士たちも加わった。

状況が理解できず、周囲を見渡していた煉はふとある視線に気づいた。

嘲笑侮蔑優越感嫌悪などなど。いろいろな感情の入り混じった狂気の目。

そんな視線の主と目が合った。


――――「勇者」綺羅星天馬。


そこでようやく煉は理解する。






ああ、これは。仕組まれていたのだと――――――――。











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