第292話 龍の祠

 一人別ルートを進んでいる煉は、まるで観光でもしているかのように探索していた。

 今頃イバラとアイトが全力で煉の捜索をしていることだろう。

 それを気にかけることもなく、煉は呑気に洞窟を進む。

 垣間見える表情はどこか子供のようで、とても楽しそうだった。


「おっ。これは」


 棒状の何かを拾った煉。

 白く丈夫なそれは持つだけで強力な魔力を感じ取れるのだが、今の煉に魔力を感知する技術はない。

 記憶を失くす以前の煉であれば、興奮し絶叫してもおかしくはない代物だった。


「これが何かわからないけど、とりあえず持っておこう」


 そう言って煉は、その棒を持ち探索を再開した。

 煉の拾ったものは、下級龍の骨だった。下級とは言え死界に生息した龍は、死して尚小さな骨ですら魔力を内包しているほどの存在。

 煉は気づいていないが、実際そこら中に龍の骨が落ちていた。

 イバラの魔力感知が狂わされた原因は、死した龍の骨が廃れることなくその場に残り続けているから。魔力を内包した龍の骨の影響で、壁に埋め込まれた翡翠が魔力を持つようになったのだ。

 それを気にするでもなく、煉は無邪気に骨を振り回し洞窟を進んでいく。




 ◇◇◇



 煉が龍の骨を拾っている一方で、イバラとアイトは別ルートを全速力で探索していた。


「レンさん!? レンさん、どこですか!?」

「い、イバラちゃん、待って……早すぎだって」

「早くレンさんを見つけないと! 何かあってからでは遅いんですよ!」

「だからってこんなペースじゃ俺らがバテちまう。ソラを頼るのはどうだ?」


 アイトは自分の脚で走るよりも、大きくなったソラに乗せてもらった方が効率良く、体力も温存できると思った。

 その上、ソラの嗅覚で煉を見つけることもできるかもしれない。まさに、一石二鳥。

 しかし、そう上手くはいかないわけで。


「こんな狭い洞窟では、ソラには乗れませんよ。それと、ソラの嗅覚には最初から頼っています。――が、この洞窟では別の匂いが充満してレンさんの匂いを判別できないみたいです」

「マジかよ……ってか、いつの間に? ソラの姿は見当たらないが」

「ここですよ」


 すると、イバラのローブから子犬サイズになったソラが顔を出した。

 どうやら死界の探索を始めてからずっとイバラのローブの内側にいたらしい。

 アイトは少し羨ましいと思ってしまった。


「へ、へぇ。そんなところに、ねぇ……」

「変な顔で変な事考えないでください。私たちはとにかく一刻も早くレンさんを見つけなければなりません。ぐずぐずしている暇はないのですからね」

「わ、わかってるって……――ちょっと待て!」


 再び進もうとした時、アイトが急に声を上げた。


「ど、どうしたんですか? 急に大きな声を出して」


 アイトは何も言わず、ゆっくりと壁際に近寄りしゃがむ。

 そこに落ちていた欠片のようなものを拾い上げ、じっくりと観察を始めた。


「アイトさん?」

「……これ、龍の骨だな。しかも、かなり高位の」

「え……龍、ですか……?」

「ああ。龍種素材特有の魔力を持っている。死界の影響か分からないが、かなり上等なものだ。もしかすると、洞窟内に魔獣がいないのではなく、龍が生息しているから魔獣が上の密林に追いやられたのかもしれない」

「それってつまり……」

「ああ、この洞窟には龍が存在する」


 アイトの言葉を聞いた瞬間、イバラは血相を変え駆け出そうとした。

 しかし、アイトに腕を掴まれ止められてしまう。


「放してください。このままではレンさんが」

「落ち着こう。まだ推測の域を出ない。本当にここに龍がいるか決まったわけじゃないんだ。ここからは慎重に探索を進めないと」

「でも……!」

「――信じよう! ……煉のことを、信じよう。あいつなら大丈夫だ。そうだろ?」


 アイトに諭され、逸る気持ちが少しずつ落ち着いていく。

 イバラは大きく息を吐くと、「ごめんなさい」とアイトに謝罪をする。

 不安な気持ちを押し殺し、煉の無事を祈りつつ胸に抱いたソラを下ろして探索を再開した。




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