第291話 翡翠の洞窟
休憩もそこそこに、三人は探索を始めた。翡翠色に輝く洞窟内を探り探り進んでいく。
洞窟に入ると、常時魔力感知をしていたイバラが全方位から魔力を感じると言う。
魔獣がうろついているのか、こんな辺鄙な場所に人がいるのか。気になり周囲を調べてみると、壁面に埋め込まれている鉱石に目を付けた。
「あー、原因はこれだな。この壁にあるの鉱石かと思ったら、全部翡翠の魔宝石だ。魔法石であれば魔力を含有しているし、ここが死界っていうのも含めるととんでもなく貴重な宝石になっていると思うぜ。正直採掘して持って帰りたいところだ」
「それくらいしてもいいと思うけど」
「いや、逆にこれだけ壁一面に魔宝石が埋まっているってことは、もっとデカいのもある筈だ。これだけの宝石を生み出す大本の奴がな」
「それなら先ほどのクリスタルと同じようなものがあるのでは? そうなるとレンさん以外近寄れませんけど」
「あ……マジだ。今のレンにあんなデカいクリスタル採ってこいってのは無理だな。どうしよう……」
「ははは……ごめん」
本気でがっかりしているアイトに、煉は苦笑いを浮かべる。
そういう意味ではないと弁明する間もなく、アイトはイバラの鉄槌を受けた。
煉に余計な気を遣わせたと、イバラの雷が落ちる。
「い、いや、ほんと……そんなつもりで言ったわけではなくてですね……」
「そんなこと関係ありません。つまらないことで場の空気を重くしないでください。レンさんに悪いです!」
「……過保護すぎない……?」
そう言うと、にっこりと笑顔を向けるイバラ。その笑顔を見たアイトは不思議と恐怖を感じ、すかさず深く謝罪した。
そんな二人のコントのようなやり取りを気にせず、一人先へ進んでいく煉。
『……こ……ち……だよ』
「? 誰だ?」
少女のような声を聞いた煉は周囲を見渡す。
何処を見ても翡翠に輝く壁が続いていて特に変化はなく、少女の姿などイバラ以外にはいない。
だが、イバラとは違う別の少女の声。その声が何度も頭の中で反響する。
『こっち……』
「こっち? どっちだ」
声につられ、煉は十字路を右へと曲がる。
進む道が合っていたのか、少女の微笑む声が聞こえた。
煉は少女の声を道標に、翡翠の洞窟を先へ先へと進んでいく。
一方で。
「あれ、レンさん!? ちょっとアイトさん! レンさんがいませんよ!」
「なにぃ!? イバラちゃん、一大事だ! 遊んでる場合じゃねぇ!」
「最初から遊んでません! 早くレンさんを探さないと!」
イバラは煉の魔力を辿ろうとするが、周囲で微細に魔力を放つ翡翠が邪魔をして、煉の魔力を正確に辿ることができない。
そして煉が右に進んだ十字路へ差し掛かる。
「二手に分かれますか?」
「いや、出来る限り一緒にいた方がいい。魔獣の気配がないとは言えここは死界だ。何があるかわからねぇ」
「ですね。では勘で」
二人は左に曲がって先を急いだ。
そうして、意図せず三人は分断してしまった。
ここは翡翠の洞窟。別名――〝龍の祠〟
魔獣がいなくとも、龍がいないとは限らない。
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