第29話 海洋都市リヴァイア
イバラの案内でリヴァイアの街へ向かうことになった。
土地勘もないし、地図もない。街の方角もわからない。
つまり、これは仕方のない事なんだ。
イバラの後ろをついて森を歩くのはどうしようもないのだ。
「見えてきましたよ。街道に出ればあとは道なりに歩くだけです」
「………こんな簡単に街道に。俺の今までの時間は何だったのか」
ものの数分で街道に出ることができた。
イバラの話によると、相当森の中腹までいかないと魔物と遭遇しないのだとか。
俺がオーク数体と遭遇したと言うと、呆れた顔をした。
なんでも、オークは単体であればEランクの冒険者が数人で倒せるくらいの魔物らしい。
それがだんだん数が増えると同時にランクも上がるそうだ。
俺が倒したオーク数体――確か十いかないくらいだった――は、Dランクパーティー+Cランク冒険者一人必要だそうだ。
俺からしたらあんな雑魚にそんな人数かけなければいけないのかと、少しがっかりした。
冒険者ってそんなに強くないのだろうか。
「それにしても……あの『死の谷』から生還したとか……信じられませんね。数千年来あそこの谷に落ちて生還した人なんて皆無ですからね」
「確かに……谷底の魔物は化け物だったからな。普通に危険度SSの魔物が闊歩しているし。俺が生還できたのは紛れもない奇跡みたいなものだ。運が良かった」
「………運が良かったで済む話ではないのですが…………」
「それより、他にも『サタナエル・バレー』みたいな危険な場所ってあるのか?」
「ありますよ。母が教えてくれました。幼い私にはとても難しい話でしたが、内容は覚えています」
「できれば教えてほしい。俺の目的を達成するにはまだまだ力不足だからな」
「いいですけど、それはまた後ですね」
「ん?」
イバラが会話を切って指をさした。
目に見える距離で、大きな外壁が見えた。
「あれが海洋都市リヴァイアです」
「ふーん。海に面しているから陸上の防衛用に外壁を半円状にしているのか。陸の出入り口を一つに絞ることで、門の見張りに割く人員を減らし、その分海での労働力に回しているって感じか」
「そんなこと、わかるんですか?」
「ただの想像。見ただけで全部わかるなんて奴、俺はひとりしか知らない。それより、フードは被っておけよ。顔を見られたらまずいんだからな」
「わかってますけど……本当に大丈夫なんですか?」
「まあ、任せとけって。口は回るほうだ」
イバラには谷底で見つけたローブを着せている。
できるだけ姿を見られないようにするためだ。
ただ、サイズが合わないから少し引きずっているし、袖も余っている。
逆に不自然か? 何とかなるだろう、気にしない。
「なんだ、お前は? 見慣れない格好だな」
「ああ、ちょっと遠いところから来たんだ。できれば早く入れてほしい。長旅で疲れているんだ」
「そうか。市民証もしくは冒険者カードはあるか?」
「どちらもない。ないとまずいか?」
「いや、少し金がかかるだけだ。一人銀貨一枚。そっちのは連れだろ? 顔を見せてくれ」
「悪いが、できれば見ないでやってほしい。妹なんだが、途中の街の宿で火事に遭って、顔が爛れているんだ」
「そ、そうなのか……いや、しかし……わかった。今回は見逃そう。ここには良い治療師がいる。きっと直してくれることだろう。では、二人分で銀貨二枚だ」
「これで足りるかい?」
「一枚多いぞ」
「感謝の気持ちさ。受け取っておいてくれ」
「そうか」
そうして街の中に入る。
完璧だな。
これくらいならチョロいもんだ。
いつも美香相手にしてたから、それと比べるとどれも楽か。
「……………よくそんな平気な顔で嘘吐けますね」
「円滑なコミュニケーションに必要なものさ。本当の話にちょっとした嘘を混ぜることで、嘘が目立たなくなる。あからさまな嘘はバレやすいけどな。相手がこっちの事情を知らないから、簡単に信じてくれる」
「ほとんど嘘だったじゃないですか………………もしかして、私に話したことも嘘だったんですか?」
「いや、あれは正真正銘本当の話。今回だってそこまで嘘はついちゃいないさ。妹っていうのと、火事に遭ったていうのだけだ。後は間違っちゃいないだろ」
「そうですけど………」
「言いたいことはわかるさ。嘘吐くことに罪悪感を感じるんだろ? イバラみたいな素直な奴は特に。でもな、馬鹿正直に生きるのは悪いことではないが正しくはない。嘘だけで生きていくのも間違いだ。いい塩梅で使い分けることが大切なんだ。人生なんてものはな」
俺がそう言うと、渋々納得してくれた。
まあ、そこら辺はこれから学んでいけばいい。
自由に生きればイバラにもわかる日が来るはずだ。
「とりあえず、まずは冒険者ギルドに行こう。いつまでも身分証がないのは困るからな。イバラ、案内してくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます