花都暴乱編

第146話 空中庭園

 現在、パラシュート無しのスカイダイビング真っ只中の煉たち。

 盛大に悲鳴を上げている二人の横で、煉は特に気にすることなくのん気な様子で落下していた。


「これ……どこに墜ちるんだ?」

「し、知りませんよ! それよりもっ! まず落下している状況を何とかしてください!!」

「あわわわわ。おち、落ちてるぞぉぉぉぉ……」

「ん? ああ、そうだな。ほら、手貸せ」


 イバラとアイトは、煉の差し出した手をギュッと掴み取る。

 さらにイバラは掴んだ腕を伝って、煉の体にしがみついた。

 二人が自分の体を掴んだことを確認した煉は、背中から炎の翼を広げた。

 すると、三人の落下速度が緩やかになり、煉に支えられている二人は落ち着きを取り戻した。


「なんだよ……飛べるのかよ……」

「〈炎翼アーラ〉は飛べるわけじゃないぞ。実際はうっすらと下に炎を噴出してるんだ。それで飛んでる風を装ってる」


 よく目を凝らして見ると、煉の足裏や翼からうっすらと炎を出していることがわかる。


「じゃあ、翼の役割は?」

「んー、見栄え?」

「必要なないだろ、それ!」

「いやいや、これカッコいいだろ。そういうの大事だろ」

「二人とも、落ちてることに変わりないんだから落ち着いてください」


 イバラの言葉で二人が静かになる。

 煉とアイトは、イバラにだけは逆らうことができないのだ。

 そしてイバラは何かを見つけたようで、指を差した。


「レンさん、あちらに何か。あれは……島、ですか? 浮いてますけど」

「空中に浮いてる島……まさか」


 ハッとした様子で煉はイバラの指した方角に目を向ける。

 視線の先には、イバラの言葉通り巨大な島が浮いていた。


「『破魔の空中庭園』……」

「それって、死界の一つの」

「ああ。大昔にとある女帝が支配していた国。女帝の魔法により国土全てが空に浮かび上がったらしいが、どうやら本当にそうみたいだな」


『破魔の空中庭園』。

 巨大な浮遊島を囲むように、周囲に小さな浮遊島が多く並ぶ。

 大昔の女帝の魔法により浮かび上がっていると言われているが、原理不明。

 誰もその謎を解明することはできていない。

 教会の教えでは、天人と呼ばれる、天上世界に住まう人間たちが住んでいるとされているが、それも定かではない。

 謎多き死界ではあるが、冒険者にとっては浪漫溢れる地でもある。


「魔法好きとしては、かなり興味深い場所だ。いくら死界とは言え、一度は行ってみたいと思っていたんだ。大昔の魔法が現在まで効果を残しているなんて、わくわくするだろ?」


 魔法や魔道具のこととなると、アイトの目の色が変化する。

 キラキラした目で煉を見つめるその姿からは、行きたいというオーラが溢れていた。


「どうするんですか? 今から行きます?」

「いや、一旦どこかの街に行く。まずはミストガイアのギルドに依頼達成の報告をしないとだし」

「そうですね」

「おいおい、正気か!? 空中庭園は常に移動していてどこにあるか分からないんだぞ! 次にまた見つけられる保証もないし」

「そんなのアイトがどうにかしろよ。空中庭園の位置を追える魔道具を作るとかさ。それに魔力の感じとかはなんとなく覚えたから、意外とどうにかなる。まずはやることやってからだ」


 煉がそう言うと、アイトは渋々納得した。

 そして次にはどのような魔道具を作るか、その思考に没頭していた。


「しかし、どこの街に行きますか? おそらくミストガイアの近くではないでしょうし」

「ある学者の言葉が正しければ、空中庭園はある国の近くを浮遊しているそうだ。だから、降りればおそらく俺の行きたかった国があるかもしれない」


 珍しく煉の目がキラキラしているのを見て、イバラは目を丸くした。

 こんなに楽しそうな煉は、戦闘中以外ではめったに見ることはできない。

 故に、とても貴重である。

 イバラは心のメモリーに煉の表情を保存し、訊ねた。


「それで、どんな国なんですか?」

「ああ――――花の都、大和連合国家の一つ、『イザナミ』だ」






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