第273話 目覚め……?

 ユウに連れられジャングルを進んでいくと、石で作られた神殿のような建造物が姿を現した。

 しかし、神殿と言えどそれは外観のみ。中に入ると天井の無い吹き抜けの空間に、地下へと続く階段があるだけ。建物自体に特殊な仕掛けがあるわけでもなく、ただ階段を囲い隠すように建てられたものだった。

 ユウは「こっちだよ」と言って、イバラ達を先導し階段を下りていく。

 階段は長く、二百段ほど下りてようやく光が見えてきた。

 そして――。


「――……わあっ!」

「……こいつは、すげぇな」


 思わず感嘆の声が漏れる。

 そこは洞窟の中のように四方を岩に囲まれた空間。

 岩壁で光を放つ天然の鉱石が、その空間を蒼く照らしている。

 何かの植物を利用して作られた小さな建物、それらを繋ぐ道のように張り巡らされた桟橋。地面が海水であるが故の作りなのだろう。

 子供たちは楽しそうに泳いで遊んでいる。

 それに、上からざっと見て数百を超える住人は皆笑顔を浮かべている。

 まるで海底洞窟に作られた街だ。死界の中にこんな街があるなんて、思ってもいなかった。


「……『絶海の楽園都市』と言われるだけありますね」

「街よりこの明るさを保つ周囲の鉱石が気になるな。どういう原理で光を放っているのか。鉱石自体が魔力を保有しているのか……それともどこかから魔力が? ああ、研究したいっ……!」

「時々お兄さんたちみたいな漂流者が辿り着くんだよ。そうして流れ着いた人たちが長い年月をかけて作り上げたんだって、おばばが言ってた」

「長い年月……もしかして、ユウはここで生まれて育ったのか?」

「うん、そうだよ。僕のお父さんもお母さんもここで生まれて僕を産んでくれたんだ。漂流者のおじさんとか最初は信じてくれないけどね。でも、外の世界って憧れるよね。僕はここと上のジャングルしか知らないけれど、外はもっと広くていろいろな人たちが住んでいるんでしょう? お兄さんたちのお話も聞かせてよ!」


 そう言ってユウは無邪気に笑う。

 ただ二人はユウの言葉をうわの空で聞いていた。

 死界の中で生まれ育った人が居ることに衝撃を受けているのだ。

 呆然としている二人の様子に首を傾げるも、ユウは二人の手を取り階段を下りていく。


「僕の家は階段を下りたすぐのところにあるんだ。もうすぐだから、着いたら眠っているお兄さんのふとんを用意するね」

「……ありがとうございます、ユウくん。突然押しかけてしまうのですが、ご家族の方は大丈夫なのでしょうか?」

「うん。今はお父さんもお母さんもいないから、自分の家だと思ってゆっくりしてよ」

「そ、そうですか。では、お言葉に甘えて」


 両親がいないということに引っかかりを覚えたが、追求するのは野暮だと思いイバラは何も言わなかった。

 とにかく、二人の最優先は煉を目覚めさせること。

 二人はユウの家にて煉が起きるのを待った。



 ◇◇◇



 新たな漂流者として、住民たちに受け入れられ馴染み始めたイバラとアイト。

 ここに来てから二日ほどが経過したが、未だ煉は目を覚まさないでいた。

 さすがに二日も目が覚めないなどおかしいと、イバラは煉の側を離れることなく付き添うようになった。

 しかし、その時は唐突にやってきた。


「……――うっ」

「レンさん!? 目が覚めましたか? 体は、どこか痛いところはありませんか? よかった……本当に、無事で……よかったぁ……」


 目に涙を浮かべ心の底から安堵するイバラ。

 煉は、きょろきょろと視線を彷徨わせると、怪訝な表情を浮かべ首を傾げた。


「レンさん? どうかしました?」

「……ここは…………それよりも……えっと……ごめん、誰だっけ?」

「――は?」


 あまりに想定外の目覚めに、イバラは言葉を失った。





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