第211話 休暇
とある昼下がりのこと。
宿の一室にて煉は小さな寝息を立て、惰眠を貪っていた。
「七つの死界」の一つである「破魔の空中庭園」を攻略した三人は、しばらく休暇とし英気を養っているところだ。
「戻りましたよー……って、また寝てる」
眠っている煉の部屋に入ってきたのは、大きな紙袋を抱えたイバラだった。
紙袋越しに煉の姿を確認し呆れたようにため息を吐く。
「レンさん、起きてください。レンさん宛てに手紙をたくさん渡されました。中には王侯貴族のものもあるそうで、あまり無視するのは良くないかと」
「……だる。なんで貴族が俺に手紙寄こすんだよ。暇かよ」
「当たり前でしょう。今や『炎魔』の名を知らぬものはいないほどなんですよ。もうただの冒険者じゃないんですからね。少しは自覚を持ってください」
腰に手を当て煉を窘めるイバラの姿は、まるで母のようだった。
イバラの言葉を無下にできない煉は嫌そうな顔をしつつも体を起こす。
そして紙袋の中から無造作に手紙を取り開封した。
「……はぁ」
「何て書いてあったんですか?」
「要約すると、庭園で見つけた宝を献上しろってさ。その褒美として貴族お抱えの冒険者にしてやるとかなんとか」
「やはりどの貴族も同じことを考えるのですね。欲張りと言うか何と言うか……」
「宝なんてないし、それ以前にまだアイトの体が治ってないんだ。しばらくはこの街から移動できないぞ」
庭園から飛び降りた後、空中で力尽きたため三人ともに海へ落ちてしまった。
本来であれば、海に落ちれば海の魔獣に襲われる危険があるのだが、今回は空中庭園が崩落した影響もあり魔獣は遠く離れていたらしい。
さらに、イザナミ周辺に落ちたことが幸いし、ギルドの捜索隊が浮かんでいる三人の姿を早期に見つけたことで助かったのだ。
三人はそのまま冒険者ギルド付属の救護院に運ばれ治療を受けることとなった。
煉は魔力の過剰使用のみ、イバラはセラミリスの魔法によってほぼ完治していた。
しかし、アイトは魔法によって傷を塞いだだけで実はボロボロだったのだ。
三日ほどで目を覚ましたものの、未だ体を動かすことはままならない状態だった。
「アイトさんはかなりの重症でしたからね。セラさんの魔法でさえ傷を塞ぐことしかできなかったほどに」
「生きてるだけで十分さ。もうしばらくすれば体も治るみたいだし、それまでは俺たちもゆっくりしてよう……」
そう言って、煉は大きな欠伸をし再びベッドで横になった。
休暇中は惰眠を謳歌しようとしていた煉だが、それを見逃すイバラではない。
イバラは人差し指を煉へと向け、くるんと回した。
すると、横になった煉の体が回転し床へと投げ出された。
「――いてっ」
「アイトさんをダシにだらけるのは許しません。レンさんにもやることはたくさんあるのですから」
「は、はい。すみませんでした……」
セラミリスと契約し、魔術師から魔法使いとなったイバラ。
以前よりも魔法に磨きがかかりその上できることも多くなった。
これまで以上に煉はイバラに逆らうことができなくなったのだった。
「とりあえず、ギルドマスタ―がレンさんを呼んでいたので、ギルドに向かいましょうか」
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