第307話 完全復活
開かれた祭壇から現れたのは、光の膜に覆われた修道女。
色素の抜けた白髪、身を守るための大量のタリスマン。大事そうに抱える翡翠の水晶がやけに印象的だった。
「あれは……! まさか、ずっとこのような場所で御身を隠されていたのか……。道理で姿を見つけられぬわけだ」
修道女の正体に感付いたラミエルが納得したように呟く。
光に包まれた修道女が祭壇に横たわるように置かれた。
煉が彼女に近づき、両手に抱える水晶を受け取った。すると、水晶が魔力を放ち翡翠色の魔力が煉の頭を包み込む。
後方でイバラやミカエルが警戒の声を上げるが、届かず。
煉は最後の記憶の欠片を取り戻した。
「……やっと、頭の中にあった靄が消えたよ。悪いな、二人とも。ありがとな」
煉が振り返り、イバラとアイトへ幼さの残った笑顔を見せた。
その悪戯小僧のような笑顔はまさしく煉のもの。ようやく本来の煉が戻ってきたと、イバラは滂沱の涙を流す。
「ああ……よかった……っ。レンさんが……元に……」
「ったく……貸し一にしとくからなっ!」
「はいはい。わぁーったよ。――それで? 随分と物騒な殺気が漏れてるが、何だアンタ?」
煉は鋭い視線を、呆然として座り込んでいる天馬を回収していた魔将軍ベリトへと向けた。
天馬を運ぶ下っ端魔族がその場を離れるのを確認すると、ベリトは好戦的な笑みを煉へ向け、魔力を解放する。
「何やら様々な事情があるのだろうが、それは我のあずかり知らぬ話。だが、邪魔するのも興醒めであるだろうと静かにしておったのだが、ついつい我慢できなんだか。貴様の紅い髪、炎の紋様、黒竜の皮のコート。なるほど、話に聞いていた通りであるな!」
「……魔族がこんなところで何してる?」
「此度はあの憐れな勇者の身勝手な行い故、この地に特に用はない。はずだったのだが……我は貴様に興味がある。我が同輩であるパイモンに傷を付けた男――レン・アグニよ! 我が名は魔将軍ベリト! 貴様の武、我に見せてみよ!」
ベリトから放たれた紫電が、煉へと襲い掛かる。
紫電は煉の目前で炎壁に阻まれ消失する。しかし、それはただの牽制であり、目くらましだった。
煉の視界から消えたベリトは、一瞬にして気配を消し高速で移動する。
狙うはただ一つ。煉の首、ただそれだけだ。
魔族軍でも主に暗殺を担うベリトは、姿を消し、煉の背後から奇襲をかける。
(その首、もらったぞっ!!)
そう確信したベリトは、驚かされることになる。
「――レン、後ろだよ」
「ああ、わかってる」
少女の声が、ベリトの攻撃を察知した。
煉も気づいていたと言い、つま先で地面をたたく。
「っ――!?」
煉を囲むように、地面から火柱が展開された。
それに煉への接近を阻まれたベリトは、咄嗟に回避するも予期せぬ熱で左腕に火傷を負った。
「ぐっ……まさか、我の動きが読まれていたとは。面白い! もっとだ、もっと我を楽しませよ!」
「盛り上がってるとこ悪いんだが、アンタと遊んでる場合じゃない。俺の仲間を傷つけた礼は返させてもらう!」
煉が魔力を解放し、紅の大太刀を構えた。
煉から放たれた魔力は炎の渦となって、空間を支配する。
あまりの熱量に、ベリトの持つ短剣が溶解し始めた。
「なっ!? 魔王様より下賜された短剣がっ!」
「花宮心明流改〈火葬・飛燕〉!」
「くっ……! 我は……我はまだ……うおぉぉぉぉ――っ!!」
振り抜いた煉の大太刀から、炎の燕が数十羽、ベリトへと放たれた。
まるで本当に生きているかのように不規則に飛び回る燕と、煉から溢れる炎の渦に包まれるベリトの叫び声が、祭壇の間に響いた。
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