第169話 空を駆ける蒼い炎
「――花宮心明流一の太刀〈飛燕〉!」
腰を落とした姿勢で、目にも止まらぬ速さで鞘に納められた刀が振りぬかれた。
花宮心明流剣術における最速の抜刀術。
そこに異世界に来てから獲得した魔力を上乗せしたことで、鋭い斬撃を飛ばすことができるようになった。
近・中距離で対応可能技に昇華させた煉のオリジナルである。
煉の魔力が込められた斬撃は、アラクネーの足を数本斬りおとし、何体か端から落下していく。
しかし、いくら橋から落とそうが、次から次へと新たなアラクネーが橋に降り立つ。
煉はちらっと後ろにいるイバラを見た。
煉の要望を叶えるための魔法の詠唱は、そろそろ終わりへと差し掛かっている。
「おい、レン! まだか!?」
「もう少しだ! 踏ん張れ!」
イーリスを手に、大量のアラクネーと対峙しているアイトの顔には疲労が溜まっていた。
ただでさえ、魔獣との戦いに慣れていないうえ、迷宮特有の毒にも警戒しなければならない。
橋に毒が飛び散らないようにアラクネ―を斬るのはなかなかに骨が折れる作業だった。
だが、弱音を吐き続けながらもアイトは剣を振っていた。
自分の目的を達成するため、強くなると誓ったアイトの意志が剣に込められていた。
それから数体のアラクネーが橋から落ちていった時、イバラから声がかかる。
「――レンさん!」
「アイト、こっちに来い!」
煉の声に反応し、アイトがすぐさま煉の側へと戻ってくる。
煉にぴったりとくっつくように二人が並ぶ。
一か所に固まった三人が狙い目だと認識したアラクネーたちが、一斉に襲い掛かってきた。
「ひぃっ!」
「蛙も嫌ですけど、蜘蛛もそれなりに嫌です―――!!」
「ちょっ、耳元で騒ぐなお前ら! イバラ、頼むぞ。――〈
煉を中心に火山が噴火したかのような爆炎が球状に広がっていく。
さらに炎の影響で、数体のエンジェルフロッグが誘爆を起こした。
爆炎はさらに激しさを増し、大きな振動となって煉たちにも降りかかる。
その影響で橋は崩れおち、焼け焦げたアラクネーと共に三人も落下していた。
「――――〈
突然煉の足元に見えない足場が生まれた。
イバラの空間魔法によって、橋の対岸までいくつかの足場が作られたのだ。
空間魔法は魔力消費が大きすぎるため、イバラでも五段くらいしか作れなかった。
それに、次段までの距離もかなり遠い。対岸まで届かせるにはそうするしかなかった。
その上、持続時間も短い。もって三十秒だ。
しかし、煉にとってはそれで十分だった。
「〈
煉の足を纏う蒼炎が、次段までの飛距離を稼いでくれる。
煉の目には足場は見えないが、所々に感知できるイバラの魔力を辿り、次の足場へと飛んでいく。
二人も抱えて飛ぶのはかなり負担があるが、今は生き残ることだけが煉の頭を占めている。
落ちてくるアラクネーを避けつつ、蒼炎を纏う影は空を駆けていく。
そして――……。
「……ふぅ。間に合った~」
対岸に着地した煉は、抱えていた二人を下ろし大きく息を吐いて座り込んだ。
間一髪、という緊張感が煉を想像以上に疲弊させていた。
「おえぇ……。きもちわりぃ……酔った……」
「ははっ。そう言えるのも生きているからこそ、だな。いやぁ、良かった良かった」
煉の笑い声と、アイトの呻き声が重なる。
それを見て、生きている実感を得たイバラは小さく笑ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます