第240話 奇妙な魔獣

「――わぁ! はやいはやーい♪」


 山を駆け上がる煉に掴まれているコノハは楽しそうな声を上げた。

 途中で突っ込んでくるワイバーンを寸前で回避したり、急な方向転換を繰り返し足りと激しく動き回っているのだが、まるでアトラクションに乗っているかのようなはしゃぎようだ。


「その足の蒼い炎カッコイイね! ウチもやりたーい」

「お前に魔法の知識はねぇだろ。あってもこれは俺のオリジナルだからできないだろうけどな」

「え~。ずるいずるい!」

「うるせぇ! 耳元で騒ぐな! それより、着いたぞ」


 数十分、山を走り続け煉はようやく足を止めた。

 目の前には巨大な入口の洞窟。壁に特殊な鉱石でも埋まっているのか、赤い光を放っている。

 さらに洞窟の奥から、強大な威圧感を二人は感じ取っていた。


「ん~、いいね! 肌がピリピリするような刺激。ちょっとは楽しめそう!」

「こいつがここに棲みついたから、山にいた魔獣が逃げるように下りていったってわけか。……なんか妙な魔力だが、とりあえず行くしかないか」

「ウチ、一番乗り~」

「あっ、こら、待て!」


 ピュ~と何も警戒せずに洞窟の中へと入っていくコノハを、煉は慌てて追いかけた。

 洞窟の中は、入り口同様壁の鉱石によって明るく照らされ進む道を示しているようだった。

 二人は迷うことなく奥へと進んでいく。

 その途中、何度か見慣れない魔獣と遭遇しつつも、特に苦戦することなく倒していった。

 しかし、煉は現れる魔獣に奇妙な疑問の抱いていた。


「半分オーガで半分ホブゴブリン? リザードマンかと思いきや蛙みたいに舌を伸ばしてきた。アイアンバードの動きが速い? 面白魔獣博物館じゃあるまいし、なんでそんなわけわからん魔獣ばかり……?」

「お兄さーん。また新しいの来たよー」

「エンジェルフロッグの翼を生やしたホブゴブリンとか、天使の真似事か?」


 そんなホブゴブリンは翼を使って飛ぶことなく、ドタドタと走り出した。

 狙いは無防備に立っているコノハ。

 しかし、相手が悪かった。


「――――ハッ!!」


 一瞬で姿が掻き消えたと思いきや、いつの間にかホブゴブリンの懐に潜り込み、強烈な掌底を叩きつける。

 すると、ホブゴブリンは跡形もなく爆発四散した。

 常人では見えない速度で繰り出される掌底。

 その鮮やかな技量に煉はピュウと口笛を吹いた。


「魔力を込めた掌底で、魔獣が四散か……さっきから言ってるが、体は残してくれよ! 討伐証明にもならないし、こいつらが何なのか観察できないじゃねぇか!」

「だって……食べられないし……」

「飯の事しか頭にないのか! 干し肉やるから、体は残せ!」

「えー……それあんまり美味しくないしぃ……」

「このっ……クソガキ……」


 洞窟に入ってから、近づいてくる魔獣は全てコノハが処理している。

 その際、肉が食べられないからと掌底一発で四散させるため、煉は奇妙な魔獣の観察もできない上、言うことを聞いてくれないコノハにストレスが溜まり始めていた。


「……お前、次やったら飯抜きだ」

「ガーン! それは嫌だ~~~~!!!」


 駄々をこね、地団駄を踏むコノハを置いて先に進む煉。

 しばらく歩いているとだんだんと分かれ道が増えてきた。

 ただ、魔力感知を使用している煉は分かれ道で戸惑うことなく次の道筋を決める。

 正しい道を進んでいく煉は、徐々に濃さを増す嫌な魔力を感じ取っていた。


「……近いな」

「――お兄さん。この先に何かあるよ。何だろう、あれ……何かいっぱいいる。それに、普通の人とは違う匂いもする」

「この距離で見えてんのか……具体的に何が見えてる?」


 コノハの目を信用し、煉は訊ねた。

 んー、と難しい表情を浮かべ、言葉を絞り出すコノハ。


「トカゲみたいなおっきい頭?がなんかの動物の体に乗ってる感じ……んー、やっぱりわかんないや。でもでも、なんだか気持ち悪いのは分かった!」

「そうか。まあ、後はなるようになるか。コノハには褒美にお菓子をやろう。イバラお手製のクッキーだ」

「わぁい! クッキーだぁ!!」


 飛び跳ねるほど喜ぶコノハは、その場に座り込むクッキーを齧り始める。

 そうなるとしばらく動かないことを知った煉は、クッキーでコノハを足止めし、先へ進む。


「これ以上邪魔されちゃ困るからな。後は大人しくしてろ」






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