第109話 お説教
邪竜が討伐されて一週間。
街は元通りの生活に……は戻ることがなかった。
何せ、教会の闇が表沙汰になり、聖王は亡くなった。
一週間で元に戻るほど、簡単な事件ではなかったと言える。
未だ、教国は騒乱の最中にある。
しかし、渦中にいたというのに、全くの無関係を貫いている者たちもいる。
神殿騎士が街中を走り回っているのを、宿の窓から見下ろす深紅の髪の青年――――煉はここ数日何もやる気が起きず、ただ寝て起きての繰り返しだった。
「はぁ……」
「どうしてレンさんがため息を吐いているのですか? こんなに国を荒らしたのはレンさんなのに」
「あれは――……不可抗力だ」
「前にも言いましたよね? 無理して力を暴走させないでって」
「うっ。ま、まあ、確かにそう言われたこともあったような……なかったような……」
邪竜討伐直後、煉の力が暴走し大聖堂周辺は建物も何もかもが焼失。
邪竜と戦っている煉の熱気から遠ざかっていたため、死傷者をひとりも出さなかったことが幸いと言える。
しかし、未だ黒炎が燻り続ける大聖堂跡地は、煉以外誰も近寄ることができなくなっていた。
「あの黒炎……あと一週間は残るな」
「そんな冷静に判断していないで、どうにかしてください。冒険者ギルドから苦情が届いていますよ。『邪竜を討伐してくれたことは感謝する。しかし、大聖堂を立て直すにも足を踏み入れることが出来なければ意味がない。国を荒らしたのも君だと聞いているが、これは私たちの問題でもある。こちらは任せてもらうが、そちらに関してはどう責任を?』って」
「いや、俺も何とかしたいのは山々だが、どうしてか消せねぇんだよ。炎が言うこと聞かないって言うか……だから、その、ごめんなさい……」
何かと言い訳を考えていたのだが、本気で怒っているイバラを前にして煉は謝ることしかできなかった。
イバラにだけは頭が上がらない煉だった。
「……はぁ。まあ、しばらくはこの国を離れることができませんし、消えるのを待ちましょう。でも、レンさんはどうにかできるか毎日試してくださいね。わかりましたか?」
「………………はい」
「それでは、行きましょうか」
「? どこにだ?」
「それはもちろん――――もう一人の当事者のところへ、です」
◇◇◇
「で、相変わらずこんな森の中にいるのかよ」
「まあ、あまり表には出れないでしょうからね。仕方ないと思いますよ」
「それよりも――なんでアイトまでついてきたんだ?」
「決まってんだろ? 聖女様の元に来るってことは、目の保養だ!」
親指を立て、いい顔でそう言い切ったアイトを無視し、煉は目の前にある廃教会を見つめた。
いくら自分の魔法で作るからと言って、どうして森の中、そして廃教会にこだわるのか煉は理解できなかった。
「なんでマリアに会いに来たんだ?」
「ギルドが事情を聞きたいってことで、マリア様をお呼びしようとしたのです。でも、呼んだって来る方じゃないですよね。なので、レンさんが接点があるということで、私が事情聴取として依頼を受けました」
「また面倒なことを……。あんまり安請け合いすんなよ」
「これを達成すれば、ランクを上げてくれるそうです。それならと受理しました。いつまでもCランクでいるのは不都合ですからね」
そう言ってイバラは廃教会の中に入っていく。
煉とアイトはその後ろをついていった。
中に入ったらマリアが祈っているだろうと三人は考えていたが、祭壇の前はマリアの姿はなかった。
奥にあるだろう居住スペースにいると思い、イバラは声を掛けながら奥へと進んでいく。
「マリア様~? イバラです。入ってもよろしいですか~? 少しお話が」
「――――……どうぞ~。奥の寝室までお越しくださ~い」
間延びした女性の声が微かに聞こえた。
マリアらしくない話し方に首を傾げながらも寝室まで向かう。
イバラが扉をノックし、中からマリアが許可を出した。
扉を開け中に入ると――――三人とも唖然。
「あら~? 皆さんお揃いで。どうぞ、ゆるりとなさってくださいな~」
三人の目に入ったのは、いつもの聖女とはかけ離れた姿。
ベッドの上で寝そべり、ぼさぼさの金髪に寝起きの顔、太ももまでかかる大きいシャツ一枚だけを纏い、足をパタパタさせ本を読んでいる、扇情的なマリアだった。
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