第153話 ミズハノメ

 煉たちはギルドマスターであるクレインの依頼とは別に、クエストボードに貼られていた魔獣の討伐依頼も受注していた。

 そのため、三人は大和連合国家内の島国の一つ、ミズハノメへと来ていた。

 当然、魔導空船に乗って。


「やっぱり、動力は風の魔宝石とスカイフィッシュの翼か……。浮遊する原理は間違いない。だが、姿勢制御に用いられている素材と、それらを全て賄う魔力源が分からない。ここは一度造船所を見せてもらうしか……」

「それは今度にしろ」


 魔導空船に乗っている間、アイトは止まることなく船内を歩き回り、空船の仕組みを解明しようとしていた。

 危うくエンジンルームへと侵入しそうになり、船員に叱られたりもしていた。

 相も変わらず、魔道具のこととなると周りが見えなくなっていまう。


「少しは落ち着けよ」

「落ち着いてゐられるか! あんな画期的な機能を搭載した空飛ぶ船だぞ! 俺も作りたい!!」

「わかったから。とっとと行くぞ。まずは飯だ」


 ミズハノメとは、周囲に魔群帯と呼ばれる、多種多様の魔獣が生息する無人島に囲まれた島国である。

 そのため、ミズハノメにすむ住人は皆Dランクと同じくらいの戦闘力がある。

 日々危険と隣り合わせの日常を送っている彼らは、必然的に強くなってしまったのだ。

 ただの漁師でさえ、海の魔獣と戦うため、日々鍛えているらしい。

 その分、最高の体を作るには美味い飯から!という風潮が強く、ミズハノメで振舞われる料理は、大和連合国家の中で群を抜いて美味と言われている。

 艶やかに輝く粒の立った米、脂ののった刺身、身の引き締まった新鮮な肉。

 煉の目的はそこにあった。

 港に立ち並ぶ食堂の中で最も活気にあふれた店を見つけ、煉はそこに向かう。

 店の外では酒樽を椅子やテーブル代わりに、漁師たちが酒盛りしている。

 一見ではとても入りにくい雰囲気を感じさせる店だ。

 しかし、煉はそんな些細な事を気にすることなく堂々と店の中に入って行った。

 案の定、煉は店の中に居た客の一人に目を付けられた。


「……よぉ、兄ちゃん。見ない顔だが、ミズハノメに来たのは初めてかい?」

「ああ、依頼で用があってな。ここが一番いい店だと思ったから来たんだが、違ったか?」

「おいおい、兄ちゃんよぉ……」


 煉の言葉で店内に静寂が訪れる。

 煉の後ろでイバラとアイトはごくりと唾を飲んだ。

 次の瞬間、先ほどの静寂が嘘のように、店に居た客が大声で騒ぎ始めた。


「――見る目あるなぁ!! そうとも! ここは港で一番の店さ! おう、お前ら! 三人分の席、空けてやれぇ! 若ぇ冒険者たちを歓迎して、宴だぁ!!」

『うおおおおおおおお――――!!!!!』


 店の中央に新しく椅子とテーブルが置かれ、三人はそこへ案内された。

 キッチンにいる店長らしき人物も、無言で親指を立てている。

 店員の若いお姉さんたちも、楽し気な様子で大皿に乗った料理と大量の酒を運んできた。

 いきなりのことで、戸惑っているイバラとアイトを置いて、宴会が始まった。

 対して煉は、目の前に置かれた焼き魚や刺身を見て、目を輝かせていた。

 待ちきれず、箸を手に取り目の前の料理に豪快にかぶりつく。

 すると、先ほど声をかけてきた大男が煉たちの側にやってきた。


「よぉ、兄ちゃん。ここの飯は美味いだろ?」

「ああ、最高だ……」

「ハハッ。そいつぁ、良かった。俺ぁ、ここの港で船長をしている、ザウズってんだ。さっきは依頼っつってたが、どんな魔獣退治だ?」

「んぐっ。確か……なんだったっけ?」

「ジェネラルミノタウロスとハイゴブリンキングの率いる群れの討伐ですよ。レンさんが適当に決めるから……」

「おいおい、そんな大物を討伐とは大きく出たなぁ。大丈夫か?」

「ま、何とかなるだろ」


 煉の軽い調子に、ザウズも苦笑いを浮かべた。

 そして、少し真面目な顔をして彼は興味深い話を始めた。


「……ここ最近よく聞く奇妙な噂があるんだがな」

「おい、出たぞ! 船長の噂好き」

「うるせぇ! お前たちも聞け! これはな、魔郡帯のある島で魔獣が一匹残らず消えたって話だ……」

「へぇ……」


 周囲の男たちはザウズの話を、そんなわけないと否定しているが、煉たちは目の色を変え続きを促した。


「地面や周りの木には血痕が残っているんだが、魔獣の死骸が一つもないときた。これはおかしい、何か変だと思いつつも原因不明だ。だがな、一点だけもっと不可思議なことがあったんだ。それはな、血痕がある場所を中心として広がっているってことだ。まるで、そこに誰かが立っていたかのようにな!!

 ……今の魔郡帯は何が起こるか分からねぇ。お前さんらも気ぃ付けてな」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る