第154話 牛討伐へ
三人は、まずジェネラルミノタウロスを討伐するために、ミズハノメから南東の方角にある島へと向かった。
その島は主に牛系の魔獣が多く生息している。
ミズハノメにおける、牛肉はこの島の魔獣で賄っているのだ。
そのため、同じ船に猟師が数人乗っており、手慣れた様子で島を探索していた。
「ミノタウロスがいるって言うのに、勇敢なもんだな。俺だったら、絶対に猟師なんてやらないけど」
「その猟師より危険な事してる自覚はありますか、アイトさん」
「…………確かに」
ミズハノメの猟師たちよりも、アイトは煉たちと共に死界探索をしている。
彼らに比べれば、アイトの方がよっぽど危険である。
ハッとした顔をするアイトを見て、二人は溜息をついた。
「なんか、心配だよなぁ……」
「ですねぇ……」
「や、やめろ! そんな顔で見るな! 俺だってなぁ……――」
長々と言い訳を始めるアイトを放置し、煉は島の外観を眺めた。
遠くから見た感じでは、あまり大きい島というわけではなく、数時間もあれば島の反対側まで行けるだろう。
しかし、島の大きさに反して魔獣の数が圧倒的に多い。
魔力感知により、大まかな反応を察知した煉は、その魔獣の密度に驚愕した。
おそらく島を数分歩いただけで、魔獣と遭遇することができる。
そして、ひと際大きい魔獣の気配は、島の中央に集中していた。
ジェネラルミノタウロスはおそらくそこに居ると予測し、猟師たちの動き方にも納得した。
彼らは島の中央には向かっていなかった。
島の外周付近を歩き回り、比較的狩りやすいダブルホーンブルやカンベコを狙っているようだ。
どれだけ腕に自信があろうと、自分たちの力量を理解している者たちの行動だった。
「さすが、こんなところに住んでいるだけのことはあるな」
「無理せず自分たちの命を優先していますね。若い冒険者の方たちに見習ってほしいものです」
「俺たちも若い冒険者の内に入るんだけどな」
「レンさんは無理しても死なないでしょう? わかっていても見ている方は辛いんですからねっ!」
そう言ってイバラは煉に指を突き付けた。
叱るようなその姿に、煉は苦笑いを浮かべる。
「何にせよ、俺たちのやることは変わらないな」
「はい。早いとこ中央に集まっている強力な魔獣を討伐してしまいましょう」
「言っておくが、今回俺はそこまで手を貸さないからな。できるだけ、二人でやれよ」
「……本当にやるのか?」
「当たり前だろ? 何のためにこの依頼を受けたと思ってんだ」
「私たちのランクを上げることと、実戦経験を積むことですね」
今回の魔獣討伐依頼を受注したのは、煉ではなくイバラだ。
以前の死界探索の折、煉が魔将軍と戦闘しているのをただ後ろで見ていることしかできなかったことを悔やみ、イバラはもっと強くなろうとした。
煉は気にしなくていいと言っていたが、イバラの想いは変わらなかった。
その想いは、純粋に煉の力になりたいがため。
その裏で、早くスコルと契約できるようになりたいという想いが隠れているのだが、そこは目を瞑ってほしいところである。
対してアイトは、依頼を受注することに乗り気ではなかった。
なぜなら、ここ数日行われた煉との手合わせにより、人生で一番体を酷使していると言っても過言ではない。
魔法と魔道具にしか興味を示さなかったアイトが、これほどまでに剣術を鍛えているのは珍しいことだ。
煉からしたら、まだまだというところだが、アイトが強くなってくれることを期待している。
その期待に応えずにはいられないと、渋々アイトは依頼を受けることに同意した。
ただ、想定していなかったことが一つ。
「……ジェネラルミノタウロスって、Aランクの魔獣じゃなかったか?」
「そうですけど、何か問題でも?」
「大ありだわ! どうして、いきなりAランクの魔獣を討伐しなきゃならないんだ!」
「死界の魔獣はもっと強いですよ。この程度楽に倒せなければ、この先足手纏いになってしまいます。アイトさんはそれでいいのですか?」
イバラが満面の笑みでそう問いかけた。
迫力のある笑顔を向けられ、アイトはガリガリと頭を掻き、自棄になった。
「あ~もうっ! やりゃぁいいんでしょ! やってやるさ! ジェネラルだかなんだか知らないが、ぶっ倒してやるさっ!!」
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