第57話 知識の国

「……あの~、イバラさん?」

「………………プイッ」


 店の中で囲まれた煉は、イバラを連れて逃げるように街から飛び出した。

 そのため馬車も使えず二人で街道を歩いていたのだが、イバラが煉と目を合わせないのだ。


「も、もうすぐ目的地なんだけど……機嫌を直していただけないでしょうか……」

「……誰のせいだと?」

「もちろん、俺のせいです。ごめんなさい」

「本当にわかっているんですか? 休憩と補充で街に向かったのに、結局ご飯食べただけで、ここまで来てしまったんですよ。いくらそう遠くない距離とは言え、焦る必要なんてなかったんです。それなのに……」

「でも、あれを放っておくことはできないだろ」

「そうですけど、もう少しやり方というものがあるでしょう。衛兵を呼ぶとか、こっそり倒すとか、それくらいできますよね? 最近のレンさんなんだか抑えが聞いていない感じがします」

「うぐっ……た、確かにそう言われると、そうかもしれないが……」


 これまで煉は自分の目の前で起きたどんな小さな諍いにも口を出してきた。

 特にいじめや迫害を受けている人などを中心に。

 その結果、様々な街で有名人となったのだが、その分弊害も多い。

 まず街で安易に姿を晒すことができなくなったこと。そして、裏組織では指名手配までされるようになってしまった。

 巻き込まれたイバラにはいい迷惑だった。


「目の前で苦しんでいる人を放っておけないのはレンさんのいいところです。でも、やっぱりやり方に問題があります。何でも力で解決なんて敵を作りやすいんですから、次からは気を付けてくださいね。次の街はしばらく滞在する予定なのでしょう?」

「ああ、わかってる。気を付けるよ。長くても一か月くらいはいるつもりだからな」

「約束ですよ」

「おう」


 そうして、イバラの機嫌が少し直ったところで、前方に大きな街が見えてきた。

 そこが煉たちの目的地である。


「ようやくついたな。『知識の国』メェティス神皇国首都ミミール。別名『賢者の都』」

「はい、あそこの大図書館は世界一の蔵書数であるそうです。多くの魔法士や学者が知識を求めミミールを訪れると聞きます」

「あそこなら、神について何かわかるかもしれないな。イバラも何か気になるものを見つけたら教えてくれ。それ以外は自由にしてくれて構わないから」

「わかりました。ただ、私もいろいろと学びたいことがあるので、大図書館に籠るのはレンさんと一緒だと思いますが。……ちゃんと睡眠はとってくださいね」

「わかってるよ。……最近イバラがおかんみたいになってしまったな」

「何か、言いましたか?」

「いえ、とんでもないです……」


 一瞬悪寒を感じた煉は、声が裏返りながらも誤魔化す。

 半年間共に旅をしたことで、イバラの尻に敷かれるようになった煉だった。





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