第58話 大図書館にて
現在煉とイバラは、世界で最も有名なミミールの大図書館の前にいた。
煉が見た帝国の城と同等かそれ以上に広大な建物で、言葉にできない迫力を感じていた。
それに加えて、街の景観もこの図書館に合わせて作られたかのようだった。
二人はその図書館とは言えない威容に圧倒されていた。
「……これ、本当に図書館か?」
「……そうみたいですよ」
「そこらの国の城より大きいんじゃないか、これ」
「ですね。あっちにあるのがメェティス皇国のお城ですから」
イバラが指さした方に煉は視線を向けた。
そこには目の前にある大図書館より一回り小さい城が建っていた。
見比べてみても、かなりの差を感じる。
「普通逆だろ」
「それだけこの図書館が国の重要建築物なんです。変な問題起こさないでくださいよ」
「わかってるって。さすがにそこまでバカじゃないから」
そう言って煉は何食わぬ顔で図書館の中に入る。
そして図書館の中でも煉の目は奪われた。
至る所が本で埋め尽くされていた。
綺麗に並んだ本棚だけでなく、壁や天井までも利用して多くの本が陳列されていた。
それだけで煉は興奮を抑えられなかった。
「すっっっげぇぇぇぇ!! どこ見ても本本本。天井にまで。どうやって収納してんだよ、あれ!」
「館内は静かに、ですよ。天井の本はおそらく魔法で落ちないようにしているんでしょう。本を取るのも魔道具を使って勝手に運んでくれるみたいですね。そこら中で魔力を感じます」
「なるほど~。ファンタジーっぽくていいなぁ、ここ。気に入ったわ」
「ほら、受付しますよ。Aランク冒険者ならそれなりの権限を与えられるみたいです。身分によって読める本の量も違うみたいですね」
「そうなのか。まあ、この世界なら普通に生きているだけだと本なんて滅多に読まないよな。魔法士とか学者とか冒険者とかは別だけど。後は学生とかか」
「そういうことです。人によって必要になる知識の種類や量が異なるので、こういった管理をしているのだと思います」
「セキュリティもしっかりしてるし、安全に勉強できる場所ってわけか。考えられてるなぁ」
関心しながら、受付の長い列に並ぶ。
すると煉の少し前の方で何やら揉め事が起きていた。
「――僕を誰だと思っているんだ! たかだか他国の勇者風情が僕に逆らうなどと、恥を知れ!!」
「で、ですから、皆さんちゃんと順番を守っているんです。若様もそういう決まりごとは守らなくてはっ」
「僕は伯爵家の嫡男だぞ! その僕がなぜ平民より後ろに並ぶ必要がある! 最優先で案内するべきじゃないのか!!」
少年の怒声が館内に響き渡る。
その周囲にいる人たちも迷惑そうに顔を歪めているが、良くあることなのか呆れた様子でため息を吐いた。
しかし、煉としてはその様子よりも少年の言葉に引っかかっていた。
「………………勇者?」
「レンさん、どなたかお知り合いでした?」
「いや、こんなところにいるはずもないと思うんだが………………あの服見覚えが」
今もなお騒いでいる少年を宥めている人たちの服装に目がいった。
見覚えがあるというのも、彼らが来ている服は煉も以前着用していた高校の制服だった。
「おい、神谷。一旦ここから離れたほうがいいんじゃ………」
「そうね。須藤君、どうにかして若様を引っ張ってこれるかしら?」
「あとで何言われるか分からんが、やってみるよ」
「三島さん、静音魔法かけてくれる? ちょっと騒がしくしちゃったから」
「おっけー。あたしにまっかせなさーい」
という声と同時に彼らの声が全く聞こえなくなった。
そのまま彼らは少年を連れて図書館を去って行った。
「レンさん?」
「………………見なかったことにしよう」
煉は現実から目を逸らすことにした。
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