第313話 小祠
扉の先は真っ暗で何も見えない。
その中で鼓膜を刺激する波の音が、一層大きく聞こえる。
「……暗いな」
「今明かり付けますね」
イバラが魔力を集め、明かりを出そうとした時。
大きな扉がバタンと音を立てて閉まり、周囲の壁に備え付けられていた蝋燭に火が灯る。
三人が思っていたよりも小さな空間。天井が目視できるほどの高さ。後方の扉以外に出入口は見つからず、岩壁に囲まれている。
足場になりそうな地面はなく、目の前の小さな階段を除けばあとはもう海だった。
中央に繋がる桟橋の先には、扉のない木造の小屋。その中心に安置されている祠から怪しげな気配を感じていた。
祠は煉にとっては馴染みのあるものだが、イバラとアイトは知らないようで首を傾げていた。
「……小屋、だな」
「……真ん中のあれは一体……何かの罠でしょうか」
「祠だよ。神様とかそういうのを祀るために置かれたんだろう」
気になるのは、一体何を祀っているのか。
神様とは言ったが、天上でふんぞり返っている奴らではないと煉は想っている。
であれば、この地で祀られる存在と言えば……ふと、これまで見た光景がフラッシュバックする。
所々に落ちていた骨、クリスタルを守る龍の死骸、竜骨で形成されたアンデッド。
「そういえば、記憶の中で大賢者がこの地を……――」
煉が何か思いついた時、突然蒼い光が懐から放たれた。
何事かと、コートの内ポケットを確認すると、どうやらリルマナン王女から受け取ったアクアマリンのネックレスが光り輝いていたようだ。
光は徐々に輝きを増し、それに呼応し小屋の周囲の水面が激しく波打つ。
そして小屋の中心、祠の小さな扉が勝手に開いた。
「うおっ!? び、びっくりしたぁ~。何が起きたんだ?」
「祠の扉が開いただけですよ。そんなに驚かないでください」
「いやいや、扉が勝手に開くってありえないだろ。驚くのが普通だろ」
「もっとおかしなことを体験してるんだから、いい加減慣れましょうよ」
「い、言われていれば確かに……」
驚いて腰を抜かしたアイトをイバラが宥める。
この程度の事では動じなくなったイバラに成長を感じるべきか、何やらアイトに当たりが強いことに疑問を抱くべきか、煉は少し悩まされた。
と、そんな些細な事を気にしている場合ではない。開いた祠の中に、何かあることに気が付いた。
「……龍の置物?」
小屋の中央はそれほど灯りに照らされていない。うっすらと浮かび上がる影で龍の形を認識した。
教国で戦った邪竜やクリスタルを守る古龍とは違い、蛇のような体でとぐろを巻いたような東洋の龍の姿。
一体何の意味が――アクアマリンの放つ光が龍の置物に届くと、同じように蒼い光を放ち強大な魔力が漂い始めた。
「っ!?」
瞬時に警戒する三人。
海面は荒れ狂い、蝋燭の火がゆらゆらと激しく揺れる。
そして祠の目の前に水の塊が出現。ゆっくりと形を変えていく。
『資格を持ちし咎人よ。――畏れよ。我は聖域の管理者である』
長く美しい蒼髪の偉丈夫へと変化した水の塊。
強大な魔力と怪しげな気配を纏う男に、警戒を強め武器に手を掛ける。
警戒する三人へ向け、男は言葉を紡いだ。
『我は四凶の一角にして海の王――青龍である。我を畏れよ。矮小なる人の子に裁定を下す』
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