第312話 知恵持ちし武具
――
世界に十しかない、人の身を持ち、一人の人間としての人格を備えた伝説の武具である。
発生も製法も不明。人為的に作られたのかすら分からず、謎の多き武具とも言われている。
武器職人や魔道具師からしてみれば、喉から手が出るほど欲しがるくらい特殊なものであるのはお察し。
煉にとってはファンタジーの産物という認識しかないのだが。
そしてここにも一人、興奮を抑えきれない男がいた。
「おおお、おい、レンさんや! インテリジェンス・ウェポンなんて伝説級の武器を前にして、その興味の無さは何だ!? 俺たちからしてみれば、夢のようなものなんだぞ!」
「いや、そんなこと言われてもなぁ……」
知らなかったとは言え、これまでいろいろな場面で使用していた切り札が、こんな幼い少女の変化するだなんて、想像もつかないだろう。
何の話をしているか分かっていないツバキは、小首を傾げ無邪気に笑う。
この可愛らしい美少女が伝説の武器だなどと誰が理解できるだろうか。
少女の虜になったイバラは、「く、クッキー、食べますか……?」と餌付けしている。
にぱーっと笑い、イバラの手からクッキーを受け取り食べるツバキ。
「か、可愛い……ッ!?」
二人の美少女が仲睦まじげに笑い合う、何とも和やかな光景に思わず気持ちが溢れだしてしまったアイトは、地面に膝をついた。
「俺もどういうことだかは分かってないんだ。前任の男はこの力について何も教えてくれなかったし。まあ、こうして人の姿をしている以上は普通の女の子として接してやってくれよ」
「……本音を言えば、いろいろと調べたいことがあるんだが。こんな女の子の姿をしてたら無理だな。それにしても……」
アイトは視線を少女たちへと向けた。
視線の先では、竜骨の戦士たちを燃やし尽くす紅髪の少女と、大量の岩の槍で串刺しにする鬼の少女が暴れまわっている。
むしろ、骨戦士の方が逃げ出しているくらいだった。
当の少女たちはとても楽しそうだ。
「……女の子って、怖いなぁ」
「容赦ねぇなあいつら……」
凄惨な光景に溜息しか出ない二人。
「レンさん、アイトさん。何してるんですか? 置いて行っちゃいますよー」
煉とアイトは視線を交わす。
お互いにフッと笑い、少女たちの背中を追う。
二人の心が通じ合った瞬間だった。
「「(絶対に怒らせないようにしよう……)」」
そう心に誓った男たちを伴い、ツバキを先頭に道を進む彼らの前に荘厳な造りの門が現れた。
如何にもそうであるかのように主張する門。これまでも何度も見てきたことだろう。
「大体こういう門の先にボスとかいるんだよなぁ……」
「なんだか人為的なものを感じますが、ここが目的の場所であることは間違いないですね」
「祭壇の間って言ってたっけ? あそこもゴール地点だと思ったんだが、どっちが正しいんだ?」
「祭壇にはこの死界を守る〝守護者〟が封じられていた。ここにも何かあるとは思うが、入ってみればわかるだろ」
「レン。ボス、燃やす?」
「ああ、燃やす燃やす」
「ちょっとレンさん。ツバキちゃんに変な言葉覚えさせないでください」
「……もう親気分になってるじゃねぇか」
思わずため息が零れる。
気を取り直して、煉は門に手をかけた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……って、鬼はもういるか。とりあえず、何でもいいから面白いものが出ますように」
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