第314話 青龍
「……魔将の次は四凶かよ。盛りだくさんだな」
あまりの大物の登場に、煉も渇いた笑いを浮かべ気持ちを誤魔化す。
どう考えても地の利が悪すぎた。
――青龍。
四凶獣と呼ばれる、神によって生み出されたとされる獣の一体。
蛇のような姿で、その全長を見た者はいないと言われるほどの巨体。
棲息地域は海。海底に佇み、時折嵐を巻き起こす最悪の獣。
海の王。大海の支配者。
そんな自然災害と同等の魔獣を、かつて大賢者が封じたらしい。
いや、大賢者でさえ四凶獣は封じるしか手立てがないとも考えられる。
それが今まさに煉たちの前に立ちはだかっている。
ここは海底。だたの人間が海の王に敵うはずもなかった。
「そんなやばい奴をこんなところに封じるなよ昔の人ぉ……」
「今、そんなことを言っている場合ではありませんよ。とにかくここから逃げる算段を……――」
「まあ、無理だろうな」
逃げ道は後方の扉のみ。しかし、それも何かの魔法がかけられているのか、内側からはびくともしない。
この狭く真っ暗な空間で、青龍と戦わなければならない。
もう笑うしかないだろう。
……そう思っていたのだが、どうにも様子がおかしい。
青龍が動く気配はなく、戦う意思も感じられない。
青龍を名乗った偉丈夫はその場で胡坐をかいてただ座った。
退屈そうに大きな欠伸を洩らし、目を閉じた。
『そんなところに突っ立ってないで、こちらに来い。何百年退屈していたのだ。我の話し相手となるが良い』
言葉の意味を理解するのに数秒の時間を要した。
話し相手となれ、とは? 何かの罠だろうか? そう疑問を抱くのが普通の反応だろう。
しかし、青龍が嘘を付いているようには思えない。
警戒心を持ちながらも、三人は桟橋を渡り祠へと向かう。
『この地に封じられ幾百年。ようやく奴の待ち人が我の前に姿を現したか』
「その奴ってのは、大賢者のことか?」
『左様。自分の無しえなかった大望を受け継ぐ者がいつか我の前に立つと言った。これほど時を要するとは思わなんだがな』
そう言って、青龍は大笑。困惑する三人。
青龍は片目を薄く開き、煉をちらりと観察した。
『ふむ。奴の残した記録は見たようだな。どうだ? 実に馬鹿げたものだったろう! 神を殺す、ただそれだけのことを失敗し、主に問答無用で押し付けた。わざわざ下らん記憶を残してな』
「……あんたはその神に作られたんだろ? 何とも思わないのか?」
「……何を言うかと思えば、勘違いするでない。我があの程度の男に作られるはずもなかろうて!』
呆れたように煉の言葉を笑い飛ばす。
『四凶獣。神によって生み出されし凶悪な四体の獣。その一角である青龍は我が殺し、その存在全てを我が喰らい尽くした。あのような紛い物の龍が、我が物顔で大いなる海を支配するのは気に食わんかったのでな! がっはっはっは――――!!』
『肉は中々美味かったな』と楽しそうに笑う。
すると、三人の頭には一つの疑問が浮かび上がる。
この男は一体……?
『ん? 我か? 本来の名は――リヴァイアサン! 世界の秩序を保つため、創造神によって生み出された世界の抑止力。つまり、神獣である!』
許容量を超えたイバラとアイトが、気絶した。
あまりの衝撃で、煉でさえ言葉を失った。
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