第315話 神獣
いつの間にか差し出されていたお茶に口をつけ、煉は心を落ち着かせた。
「神獣か……そんなのいたんだな」
「表には姿を見せぬ。人の記憶にも、書物などの記憶にすら存在を残してはおらん。我ら神獣は、世界の影にて調和を願うだけよ」
「どういうことだ?」
煉にとっては偽物だが、七神教が祀っているのは紛れもない神だ。
そう信じられているからこそ、神を信奉する人々が集い国まで興している。
神獣と言う存在が認知されていてもおかしくはない。
神の生み出した獣、という点であれば四凶獣も同じだろう。しかし、四凶獣は恐れられ討伐対象として認識されている。
何故、本物の神獣が世界の影に潜む必要があるのか、煉は疑問に思った。
「あの男もお主と同じことを口にした。なぜ神獣である我らが表に出ないのか、とな。神を騙る愚か者どもに本物の神の眷属の力を見せつけてやるべきではないか。……勘違いするでない。我らは世界の守護者。世界が崩壊に向かわない限り、我らの出る幕はない。偽神を打倒するは主ら人間の役目。我らは人の営み、行く末を見守るのみぞ」
つまり、彼ら神獣が与えられた役割とは、世界のバランスを保つこと。
世界が崩壊するような事態に見舞われなければ、彼らが動くことはない。
どんなに戦争しようが、どんな災害に遭おうが、全て人の営みの中で解決すべきこと。
彼らは自分の立場をわきまえているのだろう。過度な干渉は、人類の進歩の妨げとなる。
だからこそ世界の影に潜み、その時が来るまで備えている。
そんな時が来ないことを願いながら、永劫の時間を。
「なるほどなぁ……なんか暇そうだな」
「わかるか? 何も起きないのなら、それは平和で良いことだ。だが、何もせずこうして眠り続けているというのも些か苦しいものがある。故に、気晴らしに人の世に降り立つこともしばしば……」
「ふーん。……バレないのか?」
「バカ者め。バレたからここにおるのではないか。あの男に見つからなければ……」
どうやらこの神獣、人の世に降りたちまんまと大賢者に見つけられてしまったわけだ。
何とも迂闊な……と、思う煉だった。
「そういや、最初に四凶の一角だとか青龍だとか名乗ってたけど、あれはどういうことなんだ?」
「先にも言ったろう。奴の全てを喰らい尽くした、と。それは言葉通り、奴の存在そのものが我の糧となった。青龍という名も、四凶という立場も全て我のもの。神獣であることを隠す上ではうってつけではあったな」
「自分の本性を隠すために、そう名乗っているわけだな」
「そういうことよ。……おっと、そろそろ時間のようだな」
そう言って徐に立ち上がると、彼は両手を広げ魔力を高め始めた。
祠を中心として、青い魔法陣が空間全体に広がっていく。
「大賢者の記録を受け取りし継承者よ。次なる道へ送り届けてやろう。……そやつらは起こさなくても良いのか?」
「あとで勝手に起きるさ。有意義な時間だった。感謝する」
煉は頭を下げ、イバラとアイトを担いだ。
青龍が楽しそうに笑う。
「汝の行く末、この深海の底にて見守っていてやろうぞ。さあ、行け! 次なる試練が汝らを待っている!」
魔法陣が眩い光を放ち、煉たちの姿が消えた。
どこか別の場所へ転移したのだろう。
だが、青龍は大事なことを見落としていた。
「……そういえば、座標の指定を忘れていたな。…………奴なら、何とかするだろう。さて、我はまたひと眠りするとしようか」
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