第31話 ピンク色の少女

「えーと……」

「何か問題でも?」


 毅然とした態度で言う。

 ここで動揺してはダメだ。


「問題でも? じゃないですよ! 異常ですよ! なんですかこれ。水晶が壊れた? でもさっき計測した人はちゃんと……それじゃこの方に異常? それの方が信憑性あるけどそれはさすがに失礼じゃない……」

「いや、ほんと、失礼極まりないですけどね」

「おっと。失礼いたしました。少々取り乱してしまったみたいです。原因はこちらで究明しておくので、今回はこの数値?でカードを作成しますね」

「お願いします」


 よかった。

 何事もなく済みそうだ。

 いろいろとバレると面倒なことになりそうだからな。

 というか、大罪魔法って知っている人いるのか?

 叛逆者とかも。

 もし、世間で知られていないのであればバレても問題ないのだが。

 まあ、用心しておくに限るか。


「少々時間をいただきますので、そちらでお待ち下さい」

「はいはい」


 近くにベンチがあったのでそこに座る。

 早く終わらせて宿に行きたい。

 ちゃんとしたベッドで睡眠したいのだ。

 俺は今睡眠を希求している。

 そうしてあくびをして待っていると、ギルド内がにわかにざわついた。

 何事かと入り口の方に目を向けると、おかしな格好をした少女?がギルドに入ってきた。

 ミニスカでフリルのついたふりっふりのピンクの浴衣。

 そしてピンク色の髪を二つに結んだ特徴的過ぎる姿。

 何なんだ、今日は。どうして二度も日本文化をこうして目の当たりにするのだろうか。

 ここは本当に異世界なのか不安になる。


「スンスン。ふむ、奇妙な匂いがするな」


 少女らしい高い声に合わない独特の喋り。

 そしてスンスンと匂いを辿り、俺の前に来た。

 俺の動揺を気にすることなく匂いを嗅ぎ続けている。


「あの~……何か用か?」

「うむ。お主、不思議な匂いをしておる。それゆえ少し気になってしまっての。許せ」

「いや、まあいいんだけどね。それで? 満足したか?」

「まあ、焦るでない。これでも妾はお主に興味深々であるぞ。これは珍しきことぞ。誇るがよい。自慢して触れ回ることも許可する!」

「そんな誇ることでもないからな。俺はそんな恥ずかしいやつになりたくはない」

「ふむぅ。そうなのか。残念だの。まあよい。それよりお主に聞きたいことがあるのだ」

「なんだ? 手短にしてくれよ」

「うむ。妾に向かってその態度、実に面白い男ぞ。……お主、己が今どのような状態にあるか気づいておるかの?」

「あ? 別になんもねぇよ。普通だろ」

「ふむ。気づいておらなんだか。お主の内では今なお憤怒の焔が燃え盛っておるというのに。感情に対して鈍感なのか? それとも、完全に支配下に置いておるのか? ふむふむ。よいな。とてもよい。気に入ったぞ。お主、名を名乗れ」

「ああ? 急になんだよ。変な事聞いたと思えば名乗れとか。意味わからんぞ」

「お主が気にすることではない。早う名乗れ」

「煉だよ。阿玖仁煉。こっちで言うとレン・アグニか」

「レンか……。うむ。その名、覚えたぞ。お主とはまた会うことがあるであろう。楽しみにしておる。さらばじゃ」

「お、おい。待てよ」


 自分勝手にもほどがあると思うが。

 聞きたいことだけ聞いて帰ろうとするなよ。


「そうじゃ。妾から一つ忠告してやろうぞ。心して聞くがよい」

「……なんだよ」

「その憤怒、あまり溜め込むでないぞ。その焔はいずれ自らを呑みこみ、他者を襲うであろう。そうなる前に支配するか、もしくは発散せよ。お主が死ぬ前にもう一度相見えることを楽しみにしておるからの」


 そう言い残して、ピンク色の少女は去って行った。

 一体何しにギルドにやってきたのか、あの少女は何者なのか。

 そんなことより、あの少女のが頭から離れなかった。






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