第32話 命は大事に

「アグニ様、こちらギルドカードです。初回のランクはFになります。依頼をこなしていけば順次上がっていきます」


 そう言って受付のお姉さんがカードを渡す。

 ランクによってカードの色が変わっていくらしい。

 Fのカードは明るい緑色だ。

 それから青赤銅銀金白黒となっていく。

 最高ランクのSSは、現在世界に五人しかいないそうだ。

 Sも数十人。高ランク冒険者は数が少ない。


「いろいろと規則はありますが、絶対に守ってほしいことは一つです。〝命は大事に″です。たとえ依頼を失敗しようが、生きてさえいれば何度だってやり直すことができます。無理して大切な命を散らさないようにしてください。一受付嬢としてのささやかなお願いです」


 微笑を浮かべてそう言ったお姉さんの声音はとても真剣なものだった。

 これまで多くの冒険者を見てきたのだろう。

 その中には無理して亡くなった冒険者もいたはず。

 受付嬢と言っても担当した冒険者が亡くなるのは辛いのだ。


「わかりました。ありがとうございます」

「いえ。――そう言えば、申し遅れました。私、冒険者ギルドリヴァイア支部サブマスターのアリシアと申します。これからよろしくお願いしますね♪」

「「……………サブマスター?」」


 このお姉さんはサブマスターだったらしい。

 かなり偉い人じゃないか。

 こんな若そうに見えるのに、年齢詐欺にもほどがある。

 一体いくつなのか……。


「……………アグニ様? 何か変なことをお考えでは?」

「い、いえ……なんでもないです………………」


 そこらの冒険者より迫力を感じた。

 女とはこんなにも恐ろしい生き物だったのか。


「そ、それじゃぁ、俺たちはこれで……」


 俺はイバラを連れて逃げるように去った。

 ギルドを出るとき、ふと思い立って中に戻る。


「どうしたのですか?」

「いや、クエストボードを覗いていこうと思って」


 冒険者になったからには依頼を受けることになる。

 どんな依頼があるのか確認しておいた方だいいだろう。

 そういう些細な情報でもないよりはましだ。


「結構あるなぁ」

「そうですね。海と森の魔獣討伐や護衛依頼、初心者向けの薬草採取などもありますね」

「定番だな。ゴブリン退治とかオーソドックスにもほどがあるわ」

「おーそ……? なんですか?」

「なんでもない。それに指名手配なんてのもあるのか。『死神聖女』か。物騒だな」

「この方は屋敷に監禁されていた私でも知っているほど有名ですよ。シスターの格好をした殺人鬼です。ですが、強力な聖魔法を使用でき、教会からも『聖女』として認められた程の実力者なんです。それが、ある時を境に大鎌を振り回し、教会を私物化していた権力者たちの首を狩ったんです。それから、気に入らない汚職者たちの首を狩ることで有名になり、『死神聖女』として指名手配されるようになったそうですよ」

「かなりいかれた奴だな。しかも、聖女って言うくらいだから女だろう? シスターの見た目で大鎌振り回すとか。異常だな」

「Sランク冒険者でも勝てないほど強いそうですよ。遭遇しないように気を付けましょう」

「そうだな……」


 この話を聞くと何か引っかかりを感じる。

 違和感というか、何というか。

 さっきのピンクロリとあってから慎重になりすぎか?

 気楽に行こう。

 なるようになるの精神で。

 それから俺たちは宿を探すために街を歩き回った。






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