第33話 イバラの罪

 街中を歩き回り、少しおんぼろだが良さそうな宿を見つけることができた。

 街の様子も見れたし、いろいろと話を聞くこともできた。

 少し時間がかかってもう夜になってしまったが。


「疲れたか?」

「そうですね。久しぶりにこんなに歩き回りました。いつもは仕事以外牢の中なので」

「改めて聞くと本当に酷い環境だったんだな……」

「酷いとかそういうものではありません。最悪です。だから……」


 イバラはそこで言葉を切った。

 なんて言おうとしたのか想像はつく。

 言わなかったのは、イバラの中でちゃんと変化があったのだろう。


「疲れているところ悪いが、改めて教えてくれ。これまで何をさせられてきたのかを」

「……………それは必要なことですか?」

「そうだな。まだ信用できないってんなら、言わなくてもいい。だが、イバラが何をさせられていたのかが分かれば、その貴族の目的もわかるかもしれない」

「……そうですか。わかりました。全てお話しします。私が犯してしまった罪を。 あまり話したくないことなので、それなりに省略させてもらいますが」

「構わないさ」


 イバラは一度深呼吸をして、ぽつぽつと話していく。


「まずは私の能力からお話しします。私はある三つの魔法が使えます。

 一つ目。感応魔法というものです。触れたもの、もしくは契約した個人や対象としたものの力を増幅させる魔法です。

 二つ目。変成魔法。言葉通りモノを変質させる魔法です。これには生物も含まれます。

 そして三つ目。降霊魔法。これは私自身使用したことがないので詳細は分からないのです。ただ、あの男はこれ以外の二つの魔法に目を付けました」


 イバラの話を聞きながら考える。

 降霊魔法。宮殿で読んだ書物のどこにもそんな魔法は書いてなかった。

 見落としていただけかもしれないが、もしかすると何かあるのかもしれない。


「レンさん? 聞いてます?」

「ああ、ちゃんと聞いてる。続けてくれ」

「それでは次は貴族の男について。その男は海洋都市リヴァイアの領主にして、ネプテュナス神王国軍の将軍。国内最強の将兵です。名前は、ニクセス・ドナウリア侯爵」

「侯爵かぁ。結構な大物だったな」

「あの男の目的は、軍の強化です。どの国にも負けない軍を作ると言って私の魔法を利用しました。……実際に人を利用して」

「人を利用?」

「言葉通りです。使うのは犯罪者や末端の兵士たち、それに孤児。私の魔法で心臓を変成し感応魔法で力を増幅させたんです。そうして変質した人間は兵器として使用されました。……人体兵器です。そのほかにも子供を魔物に変質させたり、魔力を増幅して魔力路に変化させたり……私は! 私は何もできませんでした……。やらなければ痛めつけられ……催眠や薬で強制的に言うことを聞かせられたり……自傷することも許されない。私はこれまで……たくさんの人を犠牲に……っ」


 苦しそうに泣きじゃくるイバラ。

 犠牲にしてしまった命の重さ、後悔、罪の意識。それら全てを長い間ひとりで背負った小さな少女は、もう壊れる寸前だった。

 この少女に言ってやりたい。

 よく我慢したな。もう大丈夫だ、と。

 だが、その言葉はまだ早い。

 今の俺が言えることではない。

 この少女を本当の意味で救えた時、俺はそう言ってやることができる。

 そう考え、決意を固めた俺の心の奥底で、静かに炎が燃え上がった。








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