第309話 協力要請
魔族たちの気配が死界から完全に消え、全ては無事に守られた。
それからラミエルの提案を受け、海底にある彼女らの拠点へと移動した。
「さて、いろいろと話したいこともあるが先に教えてほしい。どうして祭壇に守護者が封じられていると知っていた? 天上世界より追放されてから長い間この地に住んでいるが、守護者の居場所など私でさえ知らなかったのだぞ」
ラミエルがこの死界の在り方を知っていたのは、彼女よりもずっと前から住んでいる妖怪たちに教えてもらったからだ。
来るべきときのために、いつまでもメモリークリスタルを守る。それが大賢者からの命であり、古龍との約束でもある。
計画の準備をするため、神の目を欺くこの地の結界はラミエルにとってとても貴重なものだった。
ラミエルはこの地を拠点にし、彼らと共にクリスタルを守り続けてきた。
そんな熾天使様でさえ、守護者の居場所は知らなかった。
では、なぜ煉が彼女の居場所を知っていたのか。
「簡単な話だ。古い記憶を見せられた。ただそれだけ。正直自分以外の記憶も見せられて不快だった。他人の人生を追体験するなんて、もうごめんだな」
煉は心底嫌そうな顔でそう吐き捨てた。
誰も、メモリークリスタルに保存された記憶を見ていないから煉が何を見たのかは分からない。
相当嫌な記憶だったのだろうかと推測するだけだ。
「そうか。クリスタルに刻まれた記憶を受け取ったということは、やはりお前が大賢者の待ち人、ということなのだな?」
「まあ、そういうことになるな」
「では、本題に入ろう。私は――……」
そうしてラミエルの話が始まった。
天使として生きてきたこれまでの時間。その中で感じた神への違和感や不信感。
自分と言う天使を生み出した神への反旗の決意とそうなるに至った理由。
ラミエルは包み隠すことなくすべてをさらけ出した。
少し長い話になっただろうが、ラミエルの真剣な眼差しにつられ、煉はしっかりと話を聞いていた。
「私は神への反旗を計画している。この場にいる三人の熾天使、そのほかに二人ほど人間の協力が確約されている。だが、今のままでは反抗どころか返り討ちに遭うだけだろう。そこで、〝叛逆者〟の力を借りたい。是非とも、我らに力を貸していただけないだろうか」
事情を全て話したラミエルに出来ることは、ただ誠意をもって煉に頭を下げ懇願するのみ。
それを見て、ラミエルの隣に座っていた天使二人も同様に頭を下げる。
少しムッとした表情を浮かべた煉は、大きく息を吐いて天を仰いだ。
我関せずという風に座っているイバラは、最終決定権を持つ煉を絶対的に信頼し、お茶を飲んでホッと一息ついていた。
アイトも同様に、全て煉に任せるといった様子で魔道具を弄っている。
「一つ聞いていいか?」
「何なりと」
「アンタらのその計画はいつ決行されるか分かってるのか?」
「戦力が集まり次第……と言いたいところだが、神を倒すだけで全てが終わるわけではない。神のいない世界で人々が穏やかに暮らせるようにしなければならない。そのためにはまずこの世界に住まう人間の意識をある程度改革する必要があるだろう。それも含めると……早くても五年はかかるだろうな」
「ほう……」
少し考える素振りをした煉は、天使たちに向けニコリと笑いかける。
安堵の息を漏らす天使たちに、煉は言い放った。
「――それじゃ協力はできないな」
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