第318話 砂の大国

 リヴァイアから海を渡り、大和連合国家の港であるミズハノメ、そしてさらに海を隔てた別の大陸に、「砂漠のオアシス」と呼ばれる砂の大国セトという国があった。

 巨大な砂漠を領土としているが、実際に住んでいる人口はそう多くない。

 過酷な砂漠で、人が生活できるほど整った環境を求めるのは難しい。

 街も砂漠唯一の水場周辺にしかなく、自給自足もままならないセトでは食料も他国からの輸入に頼っている。


 そんなセトが大国と呼ばれるには理由があった。

 広大な砂漠の中には、歴史的に重要とされる古代遺跡が多く点在していた。

 それらの内数か所の遺跡から得た古代の魔法技術によって、彼らは大国と呼ばれるほどの恩恵を受けた。

 本来なら自国で独占すべきものなのだろうが、セトの王はあえて公にした。

 そうすることで、遺跡の秘宝や魔法技術を求め、世界中の研究者、商人、冒険者が過酷な砂漠を乗り越え、セトへと足を運ぶ。

 商人からは食料を、研究者からは各国の技術を、冒険者には魔獣討伐を。

 国を繁栄させるため、王は訪れた彼らとの間に共存の関係を築くことに成功した。


 しかし、セトはここ数年で頭を悩ませる事態に苛まれた。

 多くの盗賊団が歴史ある古代遺跡に住みつき、縄張り争いを始めたのだ。

 彼らは商人から食料物資を奪い、ふらっと街にやってきては女を攫っていく。

 軍や冒険者に彼らの討伐をお願いしようにも、古代遺跡を荒らされては困る。

 遺跡の破壊を恐れた王らは、動くに動けなかった。

 そうして時間だけが過ぎ、盗賊たちは好き放題暴れまわる。


 その上厄介なのは、「砂塵の蜘蛛」「熱砂の大蛇」「金砂の魔蠍」という盗賊団だ。

 数百の盗賊を束ねる彼らは、激しい争いを繰り広げている。

 いつ、古代遺跡に被害が及ぶかもわからない状況に、上層部は焦燥感に駆られるが手を出せない。

 犠牲を払ってでも盗賊たちを追い払うべき、と決意を固めようとした時、盗賊たちが一斉に鳴りを潜めた。

 大人しくなったのなら良い。王はそう判断し、盗賊団を放置した。

 その判断が正しかったのか、後々知ることになる……――。




 ◇◇◇



 とある古代遺跡にて。

「金砂の魔蠍」が奪った食料と攫った女を手に、宴会をしていた。

 酒を酌み交わし騒ぎ立てる者、女を犯し下卑た笑い声を上げる者。

 その醜悪な光景を眺め、悦に浸る頭目。


「か、頭! 大変だぁっ!」


 愉快な宴会に、突然慌てふためく男が入ってきた。

 頭目が顔を顰める。


「不愉快だな。大したことじゃねぇなら、ぶっ殺すぞ」

「ひっ! そ、それが……」


 男の背後から、大柄な女が入り込む。

 豊満な胸にさらしを巻き、袴のようなズボンを履いている。

 砂漠を歩く恰好ではないが、盗賊団の男たちは彼女のスタイルに鼻の下を伸ばしていた。


「おいおい、侵入者だと? 見張りは何してやがんだ。まあいい。おい、女。ここがどこだかわかってんのか? 『金砂の魔蠍』のアジトだ。入ってきたからには、無事に帰れると思うなよ」


 頭目がそう告げると、女はニヤリと笑い頭目を指さした。


「この中で一番強いのは、あんた?」

「あ? 当たり前だろ。俺が強いから、ここに座ってる。舐めてんのか、女?」

「そうかい。だったら――あたしと力比べと行こうかい」


 そう言う女の手には、巨大な戦斧と戦槌が握られていた。

 どちらもとてつもない魔力を放っている。

 感じたことのない威圧感に、頭目の顔が青ざめた。


「てめぇ、一体何もん――おい、待て。戦斧と戦槌……返り血塗れの赤いズボンに胸を覆う布……長いレッドブラウンの髪を束ねた大柄な女……まさかっ!?」


 女が戦斧を振り上げ、疾走。

 一直線に頭目の下へ駆け出した。


「――世界最高峰、SSランク冒険者『暴虐』の……っ」



「金砂の魔蠍」、一夜にして壊滅。

 攫われた女を除いて、生存者無し。




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