第283話 妖の海溝

 ポヨンッ、と音を立てクッションのような何かに落ちた三人。

 どれほどの高さから落ちたか分からないが、特に怪我を負うこともなく無事なのはわかった。


「……なんだ、これ?」

「クッションにしては柔らかすぎるような……」

「私が魔法で作り出したものです。名付けて〈水餅〉。スライムのような弾力で地面に衝突するのを防ぎました。ですが――」


 イバラが説明を続ける前に、クッションとなった魔法は消え、三人は地面へと落下した。


「なんで俺が下に――ぐへっ」

「いたっ」

「あうっ」


 アイトを下敷きに、三人の体は重なるように落ちた。

 波の音が近くに聞こえるが、地面は固い。どうやら海に落ちたわけではないと安心する。


「……この通り、即興で作り上げたので耐久性はいまいちなんです」

「なるほど……要改善というわけか」

「……重い。何でもいいから早くどいてくれ」


 苦しそうにアイトが言うと、上に乗っかっていた二人は、ハッとしてアイトの上から降りる。


「ごめん、アイトさん。下敷きにしたみたいで」

「気が付かなくてすみません。アイトさん、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。イバラちゃんの魔法のおかげだな」


 上に乗られていたことを特に気にするわけでもなく、アイトはイバラに感謝を伝える。

 そして三人は、状況を確認しようと周囲を見渡す。

 やはり光などはなく、一面暗闇に包まれていた。

 波の音が近いことから、海の側ということだけがわかる状況。

 イバラが魔法で松明代わりの灯りを生み出す。


「周囲には頑強そうな岩壁、ところどころに赤い何か……鉱石のようだが、見たことはない。もしかすると、これが血晶ってやつなのか?」

「こんな簡単に手に入るものだとは思いませんけど……とにかく掘り起こしてみますか」

「いや、違うんじゃないかな」


 二人が壁を眺め、嵌めこまれている鉱石を掘り出そうとするのを、煉が止める。

 側に近づいてきた煉を、怪訝な表情で見るイバラたち。

 煉は血晶を見つめ、首を横に振る。


「神殿の壁に書かれていたのは、〝海妖の血晶〟だった。この名前から察するに、海妖って呼ばれる生き物がいるはず。それの血に関わるモノじゃないかと。こんな壁に埋まってる鉱石がそれと同じものとは思えないけど」

「つっても、海妖なんて知らないぞ。聞いたこともないし、そいつが魔獣がどうかもわからねぇ。どうやってそれを探すんだ?」

「……落ちる前に遭遇した女性、覚えてる?」

「はい。とても綺麗で儚くて……でも、どこか怪しげな雰囲気を感じました」

「俺の想像が正しければ、あれは妖怪だ」

「妖怪……って、何か知ってるのか?」

「何故か分からないけど、そういう存在がいるって見たことがあるんだ。どこで見たかを思い出せなくてモヤモヤするけど……。落ちる瞬間、あの女性の周囲に大量の妖怪が集まっていた。おそらくあれらを率いるような存在、それが海妖なんじゃないかな」


 煉が推測を話すと、イバラは灯りを動かし周囲の地形を確認した。

 すると、壁に囲まれた中に一か所だけ人の通れるような穴を発見した。

 あからさまではあるが、それ以外に他の場所に通ずる道は見つからない。

 三人は顔を見合わせ、頷く。


「そんじゃ、冒険者らしく探索といきますか!」





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