第54話 追求。そして舞台は次の国へ

 翌日、煉は大人しくギルドに向かった。

 バレているのに今さら逃げても意味ないからだ。

 ギルドに着くと他の冒険者の視線が煉に集中した。

 居心地悪く感じながらも、受付に行き別室へ案内される。

 そこには――。


「ようこそいらっしゃいました、レン様。どうぞ、そちらにおかけください」


 とても綺麗な笑みを浮かべたアリシアと、値踏みするような目で煉を見るギルドマスターがいた。

 その部屋の様子に煉は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「し、失礼しまーす……」


 小さくそう言って煉は向かいのソファーに座った。

 その間もギルマスの視線は煉へと注がれていた。


「なあ、アリシア。本当にこいつが昨日の奴なのか? 確かに背格好は近いが、昨日感じた覇気がないぞ」

「間違いないですよ。私が言うんです。それで十分でしょう?」

「確かにそうだが……」


 ギルマスは未だに煉が本人かどうか疑っていた。

 ちなみに煉は昨日とは別の服装をしていた。

 街にいる青年と同じようなシャツとズボンを着ている。

 顔以外の紋様も隠しているため、特徴的な深紅の髪を除けば、端から見たらただの一般人にしか見えない。


「まずはレンさん、約束通り来ていただきありがとうございます」

「約束って言うか脅迫……」

「何か?」

「いえ、何でもないです……」

「あなたが捕らえた領主様方は拘束し、ギルド内地下牢にて尋問しています。いずれ私たちができるのはここまでです。後は、王宮から使いが来るので引き渡すことになります」

「そうですか」

「そこで私たちが聞きたいのは、なぜレンさんが侯爵様を襲うようなことをしたのか、ということです」

「理由もなく貴族を襲うような冒険者を、ギルマスとして放置できんからな。――そういや名乗ってなかったな。俺はガイアス。ここでギルドマスターをしている」


 ギルドマスターの名前を聞いた煉は思った。名は体を表すとはこういうことか、と。


「それで、お前――レンだったか? どうして侯爵を襲ったんだ? 一応ギルドは依頼を受けて侯爵の捕らえに向かったのだが、お前の方が早かった。それはなぜだ?」


 誤魔化すことは難しいと悟った煉は、できるだけ省略し、イバラのことを秘密にして話した。


「なるほどなぁ……神を召喚して世界を変革するってか。バカげた話だな。しかし、それが大津波の時に起こりかけたってわけか。それを止めたのがあの男とお前。にわかには信じがたい話だが、嘘ってわけでもなさそうだ」

「俺が知っているのはここまでです。これ以上は本人に話を聞いてください」

「その話にはお前が侯爵を襲う理由がないのだが、あまり詮索するなってあいつに言われちまったからなぁ……」

「あいつって?」

「お前も会っているだろう。SSランク冒険者の『大剣豪』様だよ」

「ああ……」


 その名を聞いて煉は納得した。

 何だかんだと言って意外と協力的な男だったのだ。

 煉は次会った時一発ぶん殴ると心に決めていた。


「クレアにもできるだけレンさんに協力してほしいと言われています。その思いを無碍にはできないでしょう」

「SSランクとSランク二人のお墨付きか。こいつは超ド級の新人が出てきたな。お前みたいなのがいつまでもFランクってのもおかしな話だ。勝手だがこちらでランクの調整をさせてもらう」

「それは別に構わないんですが……いいんですか?」

「俺がいいって言っているんだ。それに国軍最強の男を倒したんだぞ。そんなのFランクにできるわけないだろ。だが、俺にも限界はあるからな。過度な期待はするなよ」

「わかっています。ありがとうございます」

「感謝するのはこちらの方だ。今回受けた依頼の報酬は全てお前に渡すことになっている。受付で新しいギルドカードと報酬をもらってくれ」

「わかりました」

「レンさん、今後の予定はどうなっているのですか?」


 部屋を出ようとしたとき、アリシアがそう問いかけた。

 煉は少し考える仕草をして、次の目的を伝えた。


「数日街で準備をしてから、海を渡って『知識の国』に向かいます。そこの大図書館が有名らしいので、少し調べ物を」


 アリシアは納得したようで、それ以上は何も言わなかった。

 そして煉は部屋を後にした。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る