第53話 お礼と手紙

 煉は逃げていた侯爵と側近の男をギルドに投げ入れて、早足でクレニユの家に向かった。

 何よりもまず確認したいのは、イバラが無事であるかどうか。

 煉はそれだけが気がかりだった。

 クレニユの家に入りリビングへ向かうと、家主がお茶を飲んでのんびりしていた。


「おや、無事戻ったみたいだね。かすり傷一つない……上出来だ。さすが、あたしが作った装備」

「帰ってきて早々にそれかよ………………。てか、イバラはどうだ?」


 焦って帰ってきたのに、そんなことお構いなしにと自画自賛するクレニユ。

 げんなりとした様子でツッコミは入れ、煉は早速本題に入った。


「安心しな。さっき目を覚ましたところさ。魔力切れでまた眠っちまってるけどね」

「……そうか。よかった。約束は果たせたみたいだ」

「それはいいんだがね。嬢ちゃんについて一つ気になることがある」

「なんだよ、気になることって」

「あれだけ常時魔力放出状態だったのに、今まで生きていられたことが不思議でね、

 勝手で悪いが少し視させてもらった。その結果、この嬢ちゃんには魔力とは別の何かがある。大量の魔力を補えるほどの何かが、ね」

「何かってなんだよ。そこ大事なところだろう」

「あたしにだって分からないことはあるんだ。何かって言ったら何かだよ。……それはもしかすると、いつかあんたの障害になるかもしれない。そうなったとき、あんたはどうするんだい?」


 途端に真剣な表情を浮かべたクレニユに、煉は驚きながらも考える。

 もしイバラが自分の邪魔をすることになるとしたらどうするか。

 煉としては正直何とも言えないのが心情だ。


「……今はまだ、決められない。実際にその時になってみないと分からない。だが、これだけは言える。俺がイバラを傷つけるようなことはない。自分で助けるって約束しておいて、邪魔になったら切り捨てるなんて、そんなの俺が俺を許せない」

「そうかい。まあ、及第点としてやろうかね。ほれ、起きてるんだろう! とっとと出てきな!」


 クレニユがそう叫ぶと、部屋の奥からイバラが出てきた。


「レンさん……」

「よお。約束、ちゃんと守ったぞ」


 煉が軽い調子でそう言うと、イバラは瞳に大粒の涙を浮かべ、頭を下げた。


「レンさんには、本当にご迷惑をおかけしました。私のせいで……」


 イバラの口から出たのは謝罪の言葉だった。

 そのイバラの様子に煉は苦笑し、イバラの後頭部を真上から軽くはたいた。


「……痛いです」

「そんなこと言わせるためにやったんじゃない。もっと他にあるだろ?」

「でも……」

「正直に言えば、俺がしたくてやったことだ。謝れる謂れもないし、イバラがそう感じる必要もない。どうせならもっと違う言葉が欲しい」


 煉は自分の気持ちを素直に伝えることにした。

 そうすることで、イバラもその思いに応えてくれるのではないかと思って。


「そう、ですね……わかりました。では、改めまして、ありがとうございました」

「おう」


 イバラが満面の笑みで煉にお礼を告げた。

 ようやくイバラの笑った顔が見れたことで、煉は嬉しい気持ちと共に、少し照れくささも感じていた。


「話の途中で悪いけど、あんたにもう一個用事だよ」

「唐突になんだ。もう少し空気を読んでくれてもいいのに」

「そんなもん知らないね。ほれ、アリシアからの手紙だよ」

「アリシアさんから? 一体何――――」


『拝啓 レンさん。


 この度は街を守ってくださりありがとうございました。

 今回の領主様の企みは我々の想像を絶するモノでした。

 それを事前に把握し、解決してくださったレンさんにはギルド一同頭も上がりません。

 ぜひ、詳しいお話を聞かせていただきたいと思っております。

 明日、ギルドまでお越しください。

 いらっしゃらない場合は……お迎えに上がりますね♡


 それではまた明日、お会いできることを楽しみにしています。


 あなたの専属受付嬢 アリシアより』


「……………………」


 煉が顔を隠していた意味は、全くなかった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る