第52話 龍王
声のした方に目を向けると、そこにはギルドで話しかけてきたフリフリの和服少女がいた。
「なんで、お前がここに」
「もちろん、こやつらの始末をするために決まっておろう」
「こいつら? 関係者なのか……?」
「関係者というよりも、妾がこやつらに鬼の少女を教えたのだ。その点に関していえば、妾が黒幕と言っても過言ではない」
その少女の言によって、煉の怒りが沸々と湧き出していく。
「お前のせいで……イバラが……っ」
「ふむ。そう言われるのも、あながち間違いではないな。だが、妾にとって必要なことだからの。仕方ないのだ」
「仕方ないで、済む問題じゃない!! イバラがどれだけ苦しんだと思っているんだ!!」
煉がそう強く非難するが、当の本人はあっけらかんとしていた。
「それが、妾に関係あるのかの?」
「は……? 何言ってんだ、お前……」
「誰がどこで悲惨な目に遭おうが妾には関係ないと申しておる。それに、今はお主がおるではないか。もう苦しむこともない。その元凶のこやつらももう終わりじゃ。あとは好きに生きるであろう」
淡々とそう言う少女に、煉はより困惑した。
何より分からないのだ。少女の考えていることが一ミリも。
「お前は………………一体、何がしたいんだ……?」
「そうじゃのぉ………………一言で言えば、一度神を見てみたかった」
その答えを聞いて、煉はまたかと嘆息した。
「世界中の人間たちが口々に言う神とはどのようなものなのか、気になるのも仕方なかろう。まあ、実際に出てきたのがあんな怪物だったとは。こやつらは大した働きもできんかった。正直、期待外れじゃ。無駄に時間かけよって、まったく無為な時間じゃった」
「神、神って……お前もそこらの狂信者たちと一緒だな。自分の価値観を押し付けるだけで他人の迷惑すら考慮しない。この世界の人間の大半は狂ってる」
「狂信者? 妾が? ――――――――たわけ」
突然少女の纏う空気が変化した。
圧倒的な威圧感に煉は冷汗を流した。
「そこらの矮小な人間共と一緒にするでないわ! 妾は世界で最も崇高な存在であり、全ての生物の頂点に立つもの! 妾の上に君臨する神と名乗る愚か者どもに諂い信仰するなど、反吐が出るわ!!!!」
そう告げる少女の金の瞳は縦に割れ、さらには竜の翼や尻尾が生えていた。
明らかに人間ではないそれに、煉は驚愕した。
「お前は……何者なんだ……?」
「よく聞け、小僧! 我が名はカムイ! この世全ての生物の頂点に立つ、龍王である!! 大国ヨルムンガンドを治め、空の上で胡坐をかいている神とやらを滅する者!! それが妾である!!」
龍王。
煉はいつの日か文献でその存在を知った。
人の治めるどの国よりも発展し、龍族が支配する大国。
攻めてくる者に対しては容赦しないが、国に住まう人間は庇護するモノとして守る。
国内は平和で、多くの人間たちが庇護を求めヨルムンガンドに向かうという話だ。
「その国の王が……お前かなのか?」
「そうじゃ。本来であれば頭が高いと言って跪かせるのだが、同じ目的を持ついわば同士と言えよう。此度の無礼は不問とする。大いに感謝せよ」
「同じ目的? 何のことだ。俺はお前とは違う」
「そうじゃ。我らは違うとも。だが、目指すべき結果は同じじゃ。なんせ――――神を殺すのじゃから」
「まさか……お前も――」
「『傲慢』を継承せし者。それが妾じゃ。我が国へ来たときは歓迎しよう。そやつらはくれてやる。煮るなり焼くなり好きにするがよい。それではな」
それだけ言い残して、少女――カムイは翼をはためかせ飛び去って行った。
煉は、まさかこんな短期間に魔人に二人も遭遇するとは思っていなかった。
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