第73話 天使襲来
「え……あれって、天使……? というか、美香……?」
「髪の色とか違うし、何か羽も生えてるけど、やっぱり江瑠間だよな……?」
突然現れた天使の姿に勇者たちは動揺していた。
他の戦士たちはと言うと、膝をつき祈りを捧げている。
この世界の人間はみな信心深く、誰もが神を信仰しているのだ。
そんな中で、煉は特に動揺を隠せずにいた。
自分の探していた天使がようやく現れたと思ったら、美香だったのだから。
「お、おい……美香だよな? そうだよな? お前、何やってんだよ。そんな恰好して」
煉が動揺しつつも声をかける。
しかし、美香の反応はなく、何かをぶつぶつと呟いていた。
「……今私はなんと……なぜ奴の名が……知らない……そんなもの、私は知らない……これは私ではない……では一体……?」
「さっきから何言ってんだよ。おい、美香!」
「うるさい、黙れ! 気安く私を呼ぶな! 私は貴様なんぞ知らん! 私は神に仕える天使。その中でも最高位である、十二聖天の一人。『正義』を司る熾天使ミカエル! 私は、分を弁えぬ愚か者を誅するためここにいる! 神の命により、貴様を抹殺する!」
そう言ってミカエルは、天使が持ちえないような禍々しく蒼黒い槍を構え、煉に突撃した。
疲労困憊の煉は紙一重でそれを躱すが、突然のことで避けきれず頬に傷がついた。
「おい、何言ってんだ! 美香、俺だよ、煉だよ! わかるだろ!?」
「知らない! お前なんかっ、私は知らない!!」
正確に心臓を狙っているミカエルの槍を煉は躱すことしかできない。
煉の心情では美香と戦いたくないと思っている。
しかし、美香ではないと言っているため、別人という可能性も捨てきれず、刀を抜こうとするが、結果として煉は反撃に出ることができないでいた。
激戦の後で体が追いつかない煉の体には徐々に傷が増えていく。
「すばしっこいですね。いい加減諦めなさい!」
「くそっ!? このっ、いい加減にしろって、こっちのセリフだっ!!」
そう叫び煉は右手をミカエルに向けた。
するとミカエルを囲うように大量の炎槍が出現した。
「少し大人しくしやがれ!」
「この程度っ!」
ミカエルが魔力を込めて槍を振ると、炎槍と同数の氷槍が生み出された。
一瞬で相殺され、煉はさらに動揺した。
その隙を逃すことなく、ミカエルが追撃を行う。
放たれた突きを躱しきれず、槍は煉の左肩を貫通した。
「ぐっ、あぁっ!」
「レンさん!?」
離れた所で見ていたイバラは煉が攻撃を受けたことで、なりふり構わず飛び出した。
突然走りだしたイバラを追いかけ、汐里たちも煉の元へと向かう。
「イバラさん、待って!」
「お、おい、神谷!? くそっ。俺たちも行くぞ!」
その様子をチラと見たミカエルは、少し嫌そうな顔をした。
「……関係のない人間の巻き込みたくはないのですが、彼女らは何をしているのでしょうか。面倒ですね。早々に終わらせましょう」
「……はぁ……はぁ……な、めんな、よ……この程度で、やられるかよっ!」
意を決した煉は刀を抜き、ミカエルに斬りかかった。
しかし、宙を舞う天使を捉えることは至難の業だった。
冷静さを欠いた今の煉では、一太刀も浴びせることはできない。
それを理解したイバラは、走りながら魔法を発動した。
「繋がりは深く、絆を力に、彼に力を〈シンパシー〉」
感応魔法による対象への魔力供給、身体能力の向上。
今のイバラにできる最大限の支援を煉に施した。
すると煉の動きが少し変化する。
先ほどまで息も絶え絶えだった煉の呼吸が落ち着き、攻撃にキレが戻った。
「くっ!? なんてしぶとい。そろそろ死んでください!!」
「こんな、わけのわからない死に方できるかっ!」
下からの煉の斬り上げと上から炎で作られた龍の顎に迫られ、ミカエルは思わず距離を取らされた。
攻撃が空振りに終わった煉だが、距離が空いたことで大きな息を吐いた。
ミカエルは距離を取らされたことで、悔し気に顔を歪めた。
そんなとき
「――――なんだよ。まだ終わってなかったのか?」
「――――あなたにしては時間がかかっているみたいですね。手をお貸ししましょうか?」
ミカエルの後方から、さらに二柱の天使が舞い降りてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます