第277話 探索に向けて

「――この場所以外の階段? 行ったことないなぁ。というか、ここと同じような階段があと四つもあるだなんて、知らなかったよ」


 一度元の「蒼鉱の洞窟」へと戻ったイバラとアイトは、他の階段の詳細を有書h年へと訊ねた。

 あの階段がどこに繋がっているのか。その先には何があるのか。

 しかし、ユウ少年だけでなく、他の誰に聞いても答えはなかった。

 誰も、「蒼鉱の洞窟」以外の階段の存在を知らなかったのだ。

 それから二人は煉を家に残し、ジャックの診療所へ向かい同じ質問をした。


「なるほど……ここ以外に階段が、ね。それは興味深い話だ。この地が君たちの言う通り死界であるならば、どこかに抜け出せる道があるとは思っていた。しかし、話はそう単純なものではない。

 君たちも知っての通り、地上の密林には強力な魔獣が存在する。この地に住まう人たちでは太刀打ちできない程のね。故に、彼らはこれまで密林を探索するだなんてことをしてこなかったんだ。下手すれば命にかかわることだから」

「……だから、誰も階段が他にもあるなんて知らなかったわけですね」

「ああ。それに、ユウ坊なんかはこの地で生まれ育った。外に憧れは抱いているものの、ここから出ようだなんて考えたこともないんじゃないかな」


 ジャックは、二人の話を聞き冷静に自分の考えを話した。

 確かに言われてみると、ユウ少年から外の話をよく聞かれる。ただ、ユウ少年の口から、自分も外に出たい、などという言葉を聞いたことはなかった。

 彼の世界は、この死界の中で完結しているのではないか。イバラとアイトはそう思い至った。


「とは言え、僕もいい加減元の場所へ帰りたいとは思うんだ。何があるかは分からないが、行かないことには何も始まらない。それに……レン君の脳に刻まれた魔法陣についても何か進展するかもしれないからね」

「そうだな……何もわからないからって足踏みしてる場合じゃねぇしな!」

「そうです。レンさんのためにも、私たちは進まなければなりません。一刻も早くレンさんの記憶を取り戻しましょう!」



 ◇◇◇



 二人がジャックの診療所で話しているころ。

 煉はひとり、真っ暗な部屋の中でベッドの上に寝転がり、天井を見上げていた。

 深刻そうな表情からは、何か懸念があるように窺える。


「……起きてからずっと、誰かの声が聞こえる。何なんだ……楽園の鍵って……。俺は……何もわからない……気持ちが悪いほどに、もやもやする……」


 そう呟いた煉は、余計なことを考えないよう瞼を閉じる。

 しばらくすると、小さな寝息が聞こえてきた。




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