第205話 鬼の力
「――〈鬼血励起〉」
そう呟いたイバラの体から、膨大な魔力が吹き荒れる。
思いもよらない事態にラファエルも驚愕の表情を浮かべていた。
「魔法……!? この結界の中でどうやって?」
「……簡単には教えませんよ。私の秘策ですから。レンさんが来るまでの時間稼ぎくらいはできるでしょう」
強大な魔力を身に宿したイバラの体に変化が起きていた。
艶やかな黒髪は真っ白に、さらに紫紺の瞳は赤く変色している。
そして最も特徴的な額の角が伸び少女の面影は消え、そこには鬼がいた。
イバラの脳裏に、いつの日かの煉との会話が思い起こされる。
◇◇◇
「イバラ、それは?」
とある森の中、一人で鍛錬しているイバラを迎えに来た時のことだ。
煉はイバラの側に置かれている赤い液体の入った小さな瓶を指さした。
「これですか? 思い付きで作ってみたんですけど……思いのほか上手くいきました」
そしてイバラが赤い液体について説明を始める。
イバラ曰く、この赤い液体は魔法陣であるとのこと。
もし魔法が使えない状況に陥った時、あらかじめ魔法陣を用意しておけば乗り越えられるのではないかと考えた。
そう思い試行錯誤した結果、出来上がったものがこの液体だった。
とある魔法陣をイバラの変成魔法により液状にしたことで、魔法の保存が可能になったという。
「……ただ、結構限定的なモノなんですよ。私の魔力では液体にするのが精一杯で。液体にしたからには使用する際も飲まなければ魔法が発動しないんです。すると、必然的に身体強化系の魔法しか使えなくて……」
「ふーん……まあ、いいんじゃないか。魔法が使えなくなった時のためだろ? それなら身体強化して近接戦できるようにすればいいんだし。ただ……その魔法ってアレだろ? 大丈夫なのか?」
「……本当なら、あまり使いたくないです。でも、自分の命を守るためですし、それに……これでレンさんの力になれるのなら構いません。私の感情よりも優先すべきことがありますから」
「……イバラがそう言うなら。ただし、無茶はするなよ。連続で使うのは絶対に無しだ。それに五分以上は使うな。それまでに終わらせろ。心配しなくても、五分もあれば俺が間に合うからな」
「……ふふっ。そうですね。それじゃ、遅れたら許しませんからね。絶対に五分以内に来てくださいよ。約束です」
そう言って二人は小指を交わし笑い合った。
◇◇◇
「……大丈夫。五分もすればレンさんが来てくれるから……」
イバラは槍を持って突進してくる天使たちを見据えた。
〈鬼血励起〉。一定時間自分の身に流れる鬼の血を活性化させる魔法。
感応魔法により五感が研ぎ澄まされ、さらに強大な鬼の力を宿す。
リミットは五分。時を経て薄まった鬼の血では、それが限界だった。
しかし、それでもイバラの瞳から希望は消えない。
五分もあれば、最も信頼する男が来てくれると信じているから。
それまで生きてさえいればいいだけだ。
「はぁ――!!」
迫りくる槍に対し、イバラは自分の身一つで対抗する。
その場で軽くジャンプし、腰を回転させ回し蹴りを放つ。
天使の槍とぶつかり合うイバラの脚が、大きな衝撃を起こし槍をへし折った。
強烈な衝撃により十数の天使が吹き飛んだことで、天使たちの勢いが止まる。
イバラを囲むように並び様子見をし始めた。
宙に佇む天使たちを睥睨し、イバラは構えを取り叫んだ。
「魔法が使えなくても戦えるってことを、証明してみせます。私は――負けない!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます