第114話 冒険者の街

 予定より一日遅れで、煉たちはようやく『霧の都』ミストガイアに到着した。

 街は魔獣避けの魔法がかけられた外壁に覆われ、守りは十分と言える。

 そして街並みは、西部劇のような荒野に佇む街のよう。

 煉は趣深さを感じ、キョロキョロと落ち着きなく辺りを見回していた。

 西部劇と違うのは、多くの人で溢れかえっていることだろう。

 多数を占めるのは冒険者である。そのほかに街の住民や冒険者相手に商売をする商人、ギルド関係者など。

 そのほとんどが冒険者に関係する人たちだ。


「……さすが冒険者の街。どこを見ても冒険者ばっかりだな」

「建物は基本的にギルド関係の宿、食堂、武器屋、道具屋、ですね。ところどころに非戦闘員の姿も見えますが、おそらくここに居を構えている冒険者の方の伴侶でしょう。子供の姿もちらほら見えますしね」

「と言っても、基本は冒険者をメインに成り立っているわけだ」


 街の中を歩きつつ観察する煉とイバラ。

 向かう先はまず冒険者ギルド支部である。

 煉はひとり静かな男が気になっていた。


「………………アイト、どうしたんだ?」

「いや……この街で稼げそうな気がして……少し考えていた」

「なんだ。商人に戻るのか」

「違う。お前たちとの旅の路銀になるんじゃないかとな。俺は死界攻略には足手纏いになりそうだから、自分にできることしようと思って」


 真面目な顔でそう言うアイトを見て、煉は目を見開いた。


「おまっ……ちゃんと考えてんだな……」

「てめぇ。馬鹿にしてんのかっ!?」


 御者台に座るアイトが屋根の上にいる煉に向かって吼える。

 煉は気にした様子もなく、からかうような笑みを浮かべていた。

 そんな二人を呆れたようすでイバラが宥める。


「もう、落ち着いてください。ほら、もう着きますよ」


 イバラが前方に視線を向ける。

 二人も同じように前を向き、呆然と口を開けた。

 目の前には、冒険者ギルドミストガイア支部。

 大聖堂と並ぶ大きさの建物。下手すると一国の城と同じ大きさである。

 冒険者の街というだけあり、ギルドの建物には力を入れているのだ。

 入口も常に解放され、代わる代わる冒険者が出入りしていた。

 隣接されている馬車の停留所に馬車を置き、三人はギルド内に足を踏み入れた。

 冒険者ギルドらしい木製の建物で、内装も他と大差ないが外見通り中もかなりの広さがある。

 入口から正面に大きな階段があり、上階にはそこから行くようだ。

 階段の両脇に受付があり、多くの冒険者が並んでいる。

 そこで依頼を受け、達成報告をしたりするのだ。

 煉たちは勝手が分からないので、とりあえず左側の列の最後尾に並んだ。

 すると……。


「おいおい。ここはガキが来るところじゃねぇぞ?」


 煉たちに絡んでくる男がいた。

 煉とイバラはフードを深く被り顔が見えないようになっている。

 クレニユお手製ローブの効果で認識阻害もかかっている。

 完全に黒いシルエットしか見えないようになっていたため、アイトだけが姿を晒していたことになる。

 つまり、男はアイトに絡んできたのだった。

 自分が声を掛けられていると理解するまで、アイトは硬直。そして動揺しわたわた。


「お、俺!? こ、子供じゃねぇしっ! て、てか、レン! どうにかしてくれ……!」

「頑張ってくれ。たいして強くないから」

「お前に比べたらなっ! どこからどう見ても強そうにしか見えないわっ!!」


 煉と比較するとそれこそSランク以上でないと相手にならない。

 筋骨隆々の冒険者で背に大剣を背負っているが、煉は手入れが雑であり、防具もまともに装備していない様子から、低ランク冒険者であると推測した。

 それに加え、自分より下の冒険者を見つけてはこうして絡んでくるのだから、大したことはないと評した。

 取り巻きたちもニタニタと笑っているだけで止めようとはしない。素行の悪さが際立っている。

 他の冒険者たちもいつもの事なのか呆れ顔で成り行きを見守っていた。

 イバラは煉の後ろで面倒事になりそうだとため息を吐いた。


「おい、俺様が話してんだ。こっち向けよ」

「おおおおいっ。どうすんだよ。怒ってるぞ」

「怒らしてるのはアイトだけどな」

「な、なんとかしてくれよぉ……俺じゃ無理だよぉ……」


 そう言って煉を押し出し、その後ろに隠れる。

 煉は面倒くさそうに顔を歪め、盛大に息を吐いた。


「ああ? なんだてめぇ。怪しい格好しやがって。Cランク冒険者のこのカンマーセ・イッヌ様の前で顔も見せねぇとは生意気だな」

「ぷふっ。噛ませ犬とか……自己紹介してるしっ」


 こらえきれず煉は大爆笑し始めた。

 周囲の冒険者たちも煉と同様に笑う者、煉に哀れみの視線を向ける者がいた。

 抱腹絶倒の勢いで笑われた男は青筋を立て、怒りを露わにした。


「てめぇ!! 俺様をバカにしやがったな! 許さねぇぞ!!」

「うるさい。静かにしろ。〈炎大槌フラム・ハンマー〉」


 男の頭上で炎の弾が形を変え大槌となり、振り下ろされる。

 頭を大槌で殴られた男は、勢いで頭から床に突き刺さった。

 そのままピクピクと痙攣し、そして動かなくなった。

 冒険者ギルドを静寂が包み込む。

 煉はまさかのテンプレ展開に次に起こることを想像した。


「――――何事です!?」


 煉の予想通り、階段の上から整ったスーツを纏った幹部のような人間が降りてきた。






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