第300話 根源を断つ

 怒りを露わにした天馬は、ただ闇雲に剣を振り回す。

 まるで癇癪を起した幼子のようで、見ているだけで憐れに感じる三柱さんにんの天使たち。

 しかし、天馬が剣を振るうだけで、飛び散った魔力が形を持ち闇へと変質していく。

 膨れ上がった闇は、その場に落ちている瓦礫や倒れ伏す魔族すら容赦なく呑み込んでいった。


「なんだあれは……勝手に増殖している?」

「厄介、というだけではなさそうですね。呑み込んだ物体から魔力を吸収しているみたいです。その上、あの愚者が制御できていないせいか見境がない」


 その場に落ちているもの全てを呑み込む闇。

 それの本質が魔力であり、人から生み出されたものであれば、そこに意思が介在するはず。

 だが、発生源である天馬はその魔力を制御できていない。自分が生み出したものだとも認識していないようだ。

 人の手を離れ膨れ上がる闇は、ただその場にあるものを呑み込み増殖する化物となんら変わりない。

 妖怪たちもその危険性を本能的に察知し、即座に闇から離れ結界に守られている祭壇裏へと避難していた。


「さて、どうするお前たち? あの闇を消す方法は思いつくか?」

「正直、あれそのものをどうにかできるとは思えないわね。ほら」


 ガブリエルはその言葉を証明するかのように、無造作に手を振り光の矢を放った。

 放たれた矢は一直線に闇へと向かい、一瞬にして吸収されその魔力は養分となった。


「魔法も吸い込むみたい。もっと強力な魔法とか使えばわからないけど」

「そんなことをすれば神にこの地が暴かれてしまう、か……」

「結界が破壊された今、秘匿されていた島の存在も明らかになっているのでは?」

「確かに死界に張られていた結界は全て壊された。だが、神の目を欺く結界は壊された直後に張り直された」

「張り直された? その言い方では結界を張り続けている守護者が未だ生きていると言っているようなものでは……」

「ああ、生きている。言葉を話すことはできず動くこともままならないが、結界を張り続けるというシステムとして、彼女は今も生きていると言える。どこにいるかは私にもわからんがな」


 その事実に、ミカエルもガブリエルも驚きを隠せなかった。

 百年以上も強力な結界を張り続けている術者が、今なお生きてこの島を秘匿し続けているのだ。

 神に選ばれた天使だ何だと言っていたこともあったが、それとは比べ物にならないほどの力を持つ人間は存在した。


「ただ、このままでは彼女は持たないだろう。どうやら、あの闇は強力な魔力に反応するようだ。この死界で一番魔力を持つ守護者の下へ向かおうとしている。そうなってはこの地は神の目に触れてしまうだろう」

「……まずいですね、それは」

「ああ、だから」


 ラミエルは、怒り狂う天馬へ槍を放った。

 とてつもない勢いで放たれた槍は、天馬の頬を掠り地を抉り突き刺さった。


「……てめぇ」

「闇そのものをどうにかできないのならば、その根源を断つのが正道だろう。元勇者の愚かな少年よ。その憐れな魂を正しき天に送ってやろう!」


 遂に、天使たちが動き出した。





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