第173話 vs 災禍 ②

「――お、お前らっ! 一体どこに居たんだ!?」


 クレインが必死な声で叫ぶ。

 最初から煉やグラムが居ればこんなことにはならなかった、そう考えていた。


「ちょっとな。まあ、悪かったと思ってるよ」

「私は……気まずいというか、少々顔を出しずらかったと言いますか……」


 グラムは居心地が悪そうに顔を逸らした。

 その表情を見たクレインは呆れたようにため息を吐き、苦笑した。


「過ぎたことをグチグチ言っても仕方ねぇ。元気でやってたみたいで安心した。たまには顔ぐらい見せろよ。家族なんだからな」


 小さな体で背伸びをし、グラムの高い頭を軽くはたいた。

 兄に殺されると勘違いしていたグラムは目を丸くし、震える声で訊ねる。


「……私を、殺そうとしていたのでは……?」

「ああ? バカ言うな。弟を殺そうとする兄がどこにいる。お前が変な力を付けてから姿を見せなくなって心配になっただけだ。ったく。変な事考えやがって。ほら、交代だろ? 俺はもう疲れた。後は任せたぜ」


 クレインは軽く手を振り、疲弊している冒険者たちを連れギルドに向かった。

 ギルドはイザナミの街で一番海に近い建物だが、強固な結界によって守られているため、実はどこよりも安全な場所だった。

 そこでは怪我人の治療をしている。その陣頭指揮を執るため、ギルドに戻らなければならない。

 その場に残ったのは、煉、イバラ、アイトの三人とグラム、ヴィランのみ。


「さて、邪魔な奴もいないみたいだし、ひと暴れするか」

「私の食事を減らしたら許しませんよ。先にあなたを射抜いてしまいますので、ご注意を」

「そんなもん知るか。イバラ、後方支援頼むぞ。アイト、イバラとギルドに魔獣が近づかないように頑張れ」

「お任せください」

「指示が雑過ぎないか……? まあ、やるけど」


 やる気満々のイバラと対照的にアイトは深いため息を吐いた。

 もしかすると自分の仕事も中々大変なのかもしれないと悟ったのだ。

 武器を手に取り早速突撃しようとした煉とグラム。

 その足を止めるものがいた。


「――僕は何をすればいいのかな……?」


 ヴィランだけ、役目を与えられていなかった。

 煉もあっ、と声を漏らしそして戸惑った。

 正直、ヴィランの力を持て余していた。


「お前は……どうしようか」

「彼女は何か問題でも?」

「いや、さっきも力を借りたんだが……」


 ここに来る前、煉たちはミズハノメに立ち寄っていた。

 イザナミ同様、ミズハノメにも魔獣の脅威が迫っていたのだ。

 イザナミほどではないが、かなりの魔獣に襲われていた。

 そこに立ち寄った煉は魔獣の足止めとして、迷宮を抜け出す際に拾ったヴィランの力を借りた。

 すると――。


「――〈猛毒世界ヴェレーノ・モンド〉」


 ヴィランの足元から毒が溢れだし、一瞬にして景色を変貌させた。

 透き通った綺麗な海は、突如猛毒に犯され、生物が生息できる環境ではなくなった。

 大量の魔獣が、バタバタと倒れていく光景はかなり奇妙なモノだっただろう。

 煉も微妙な表情でそれを眺めていた。

 ミズハノメ周辺の海は、しばらく立ち入り禁止区域となってしまった。

 今回の件が片付いたら、毒を消しに行かなければならない。

 それまでヴィランと行動を共にしている。


「あー……お前も雑魚処理かなぁ……。ただし、海を汚さないこと。いいな?」

「……君の頼みなら、私は頑張るよぉ……」


 恍惚とした笑みを浮かべるヴィラン。

 少し引き気味の煉が、今度こそ戦闘開始の狼煙を上げる。


「――よ、よし! 気を取り直して、行くぞ!!」


 微妙な出だしとなってしまったが、煉は蒼い炎を纏って空を駆けだした。





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