第180話 強くなるために
――今日もダメだった。
天高く上った太陽の下、白い砂浜の上で仰向けに倒れこんだ俺は唇を噛みしめた。
イザナミに来てから、というより死界を抜けてから毎日同じように仲間であるレンに手合わせしてもらっている。
お互いに魔法は無し――魔人であるレンとの身体能力に違いがあるから、俺は身体強化ありだが――で、殺傷性のない木剣を使っているとは言え、毎度俺の木剣だけ粉々になってしまう。
一度だってレンに土を付けたことはないし、単純な剣技で全力を出してもらったこともない。
今の俺ではまだレンと全力で戦うことなどできないと、あいつもわかっている。
それでも、毎日こうして手合わせをしてくれるのはありがたい。
心の内では感謝はしていても、やはり悔しさを感じてしまう。
レンは俺より二・三歳年下で、身長も俺より少し小さい。
身体的な特徴や人生経験では俺が勝っているはずなのに、魔人と人間という違いだけでこうも変わるのか。
最初に手合わせをした時、こう呟いた俺にレンは言った。
『そんなもん関係ねぇよ。体の大きさや身体能力だけで全てが決まるわけではない。知恵と技術、心理、感情、経験。これらをどう上手く使いこなすかだろ? 今の俺でも元の世界にいた師範に勝てるとは思えない。あの人は正真正銘の化け物だ。あんな平和な国でどうして強くなれたのか知りたいくらいだ』
レンの言う通りだった。
魔獣も魔族も天使も、身体的には俺たち人間より全然強い。
それでも人がそれらに負けていないのは強さを補うほどの知恵や技術によるものだろう。
それから俺は、これまでの戦いに関する知識を記憶から引っ張り出して試行錯誤するようになった。
かつてあの国で王子だった俺は、書庫に籠って戦術書や戦争の歴史書なども読んでいたことがある。
この世界での戦闘知識ならレンにも劣らない。
しかし、記憶を失っていた間や王子だった頃も実際に戦闘したわけではない。
むしろ、剣を持つのはあまり好きではなかった。
いくら才能があろうと俺が好きだったのは魔法や魔道具だからだ。
今はそんなことを言っていられない。
アリスを取り戻すために、俺は強くならなければならない。
それにはレンの側にいることが重要だ。
レンにおいて行かれないためにも鍛錬を欠かしてはいけない。
いつまでも砂浜の上で寝転がっている場合ではないのだ。
イザナミでまたしてもレンは名を上げた。
四凶獣と呼ばれる凶悪な魔獣を討伐したのだ。
それ以前にレンは死界で魔将軍を退けもしたし、教国では邪竜でさえ倒している。
……相手が強すぎではないだろうか。
今のままではレンの胸を張ってレンの仲間と言えない。
だから俺は強くなるんだ。
空に向かって拳を掲げそう誓った。
「――いつまでそうしてるんだ?」
不意にのんびりとした声がかけられた。
俺の近くに座り込み、眠そうな目を向けるレンの姿が。
そう言えば手合わせをしている最中だった。
思わず笑みがこぼれる。
「どうした? 急に笑って、気持ち悪いな」
「何でもな……――気持ち悪いってなんだ!?」
「思ったことを言っただけだ。それよりどうするんだ? まだやるか?」
レンが木剣で肩を叩きながら聞いてくる。
もちろん、俺の答えは決まっているとも。
立ち上がり、軽く砂を払った俺は新しい木剣を手に取り構えた。
「当然――やるに決まってるだろ。今日こそ一本取ってやる!!」
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