第305話 vs 魔将軍ベリト

 ベリトの昂りに合わせ溢れだした雷が荒れ狂う。

 生き残っていた魔族たちも巻き込まれないよう離れ始めた。

 どれだけ放出されても減る気配のない魔力に、戦慄する。


「……これは、相当まずいと思いますけど」

「鬼の少女よ。その従魔のスコルでなら相手になるのではないか?」


 ラミエルに問いかけられるも、イバラは首を横に振った。


「いえ、今のソラは私との契約によって力を制限されている状態です。まだ力の底がしれない魔将軍の相手をするには力不足ですね……私が未熟なばかりに……」

「そうか……。気にすることはない。それなら全員で奴を討ち果たせばいいだけのこと。力を尽くせ! 魔族なんぞにこの聖なる地を穢させてはならん!」


 ラミエルが叫び、皆を鼓舞する。

 光の鎧に包まれた手は震えていた。ベリトとの力の差を感じているのだろうか、自らの非力さに唇を噛みしめる。

 彼女の言葉は、自分の心を奮い立たせるためのものでもあった。

 だが、ラミエルの檄に意味はあった。

 ベリトと対峙する誰もが、顔つきを変え自らの武器を握りしめる。

 理由は違えど、不遜な侵入者を排除するために彼女らは戦っているのだ。

 ここで臆して、逃げるわけにはいかない。圧倒的な力の差を感じてもなお、立ち向かわなければならなかった。


 そんな彼女らの意思を感じ取り、ベリトは嬉しそうに笑う。


「良い……ああ、良いぞ! そうだ! 戦う意思を我に示せ! 我を大いに楽しませるが良い!!」


 荒れ狂う雷が短剣に集約し、紫電を纏い大剣へと変貌する。

 ベリトは、同じ魔将軍と戦う以外で力を解放したのは数年ぶりの事だった。

 魔将軍はそれぞれ固有の強力な力を、主である魔王より与えられる。

 以前、森で煉と戦った魔将軍パイモンは〝霧〟。そしてベリトは〝雷〟だ。

 自然の暴威とも言えるその力を、自由自在に操ることができるベリトは、まさに一騎当千の魔将だった。


「この力を解放したのはいつぶりだろうか。貴様らは誇って良いぞ。我をここまでやる気にさせたのだからな! この剣は、振るうだけで雷を落とす! 〈魔雷降臨サンダーレイン〉!!」


 頭上に掲げた大剣を振り下ろす。ただそれだけで、雨のように雷が降り注ぐ。

 その威力は言わずもがな。大自然の力を相手に矮小な人間では抗うことなど不可能。

 そう思わせるほどの力を持っている。

 しかし、それが自然現象であるのならやりようはある。


「雷は私がどうにかします。行ってください!」


 イバラが杖を構えながら叫ぶ。

 天使たちは逡巡するも、アイトが真っ先に走り出したのを見て、後に続いた。


「ほう! 真っ向から来るか! 面白い。だが、我の雷をどうにかできるとでも――っ!?」


 ベリトは驚愕の表情を浮かべた。

 ただ真っ直ぐ進むアイトへ降る雷が寸前で標的を変え、すぐ横に発生した鋭い石柱へ落ちた。

 アイトのすぐ後ろを飛ぶ天使たちも同様に、雷は勝手に曲がっていく。


「走り続ける仲間に合わせ避雷針を発生させるとは! 見事だ、鬼の少女よ! そうでなくては面白くない!」


 ベリトはさらに大剣を振り、雷を降らす。

 雷はその暴威を増していく。

 苦し気な表情を浮かべるも、イバラは同じように避雷針を作ろうとした。

 その瞬間、突如発生した闇が雷を全て呑み込んでしまった。


「……何故、邪魔をする? 愚か者よ」

「俺は勇者だ……誰よりも選ばれた男だ……こんなはずじゃない。こんなはずじゃないんだ……これは夢だ。そうだ、夢なんだ。じゃなければ俺がこんな無様を晒すはずがない……」

「妄想に取り憑かれ、己が意思すら見失ったか。憐れな男だ。眠っていてもらおう」


 天馬に向け雷を放つが、全て闇に呑み込まれてしまう。

 勢いは収まることなく闇はどんどんと膨れ上がる。


「面倒な……」

「これは私たちもまずいんじゃ……」


 闇が祭壇を埋め尽くそうとしたとき


『――っ!?』

「この魔力は……!」


 突如、燃え盛る炎のような熱気が空間を支配した。





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