第247話 秘密の飲み会
「――で、俺を呼んだって言うのか?」
ギルドマスターの執務室には、新たにウリンが呼び出されていた。
そして、王女から事情を聞くとあからさまに嫌そうな顔で煉を睨む。
「お前ならそれくらい余裕だろ?」
「当たり前のこと聞いてんじゃねぇ。そんなことより、王族の依頼を断るわけにはいかねぇだろうが。めんどくせぇことに巻き込みやがって……」
「仕方ないだろ。王女さんと同じグループで信頼できるのはお前くらいだからな。別に王女さんを勝たせろってわけじゃない。王女さんが生きてればそれでいいんだろ?」
「そうだ。最優先は姫の御身だ。野蛮な冒険者に頼るのは癪だが、姫のお命には代えられん。その身を挺して姫をお守りしろ」
「……なぜメイドの方が偉そうなんだ?」
冒険者のみならず、王女とサイラス以外の全てを敵視しているナナキ。
ウリンに対しても変わらずの態度で、ウリンを睨みつけている。
なぜメイドに睨まれているのか理解できないウリンは、本能的に睨み返していた。
王女専属メイドとAランク冒険者の睨み合いで執務室の空気が重くなる。
「やめなさい、ナナキ。私たちは彼にお願いする立場なのですから」
「失礼いたしました」
「ウリンも落ち着けよ。女には手を出さないんだろ?」
「ちっ。当たり前だ。男としての誇りにかけ、女に手は出さねぇ。それが親父の教えだ。
……悪ぃな、メイドさんよ。だが、そう睨まんでくれ。うっかり威圧しちまうからよ」
ウリンはナナキに頭を下げると、立ち上がった。
そのまま部屋を出ようとする。
「どこに行く、ウリン? 王女殿下の話はまだ終わっていないぞ」
「依頼は受ける。試合中の王女様を守ればいいんだろ? 報酬はギルマスが決めてくれ。――それより、レン。一緒に来い」
「は? どこに?」
「俺がお前を誘うのは殺し合いか酒くらいだろうが。奢ってやるから来い。話がある」
えらく真剣な眼差しで煉を見る。
視線から何かあるのだろうと察した煉は、何も聞かずにウリンの後をついていく。
◇◇◇
ウリンが行きつけだという酒場に来ると、常連しか通さないらしい奥の個室へと案内された。
注文した赤ワインと食事が届くと、個室の扉に鍵がかけられ何らかの結界が張られた。
煉は訝し気な視線をウリンに向ける。
「……どういうつもりだ?」
「別に閉じ込めたわけじゃねぇ。誰にも聞かれないように消音と隠匿の効果がある結界を張ってもらった。ここの店主は元Aランク冒険者の優秀な結界術士だった。第三者にバレちゃならねぇ話をするにはうってつけだ」
「なるほど。それで、話ってなんだ?」
そう訊ねると、ウリンは赤ワインを呷る。
「昨日、『怪槌』の工房を出てからある人物に依頼を持ちかけられた。お前なら、これだけ聞けば想像はつくだろ?」
「さっきの話と関係あるのなら、おそらくリル王女の兄たち――二人の王子か?」
「ああ。俺とヨミ、二人に同じ依頼の話だ。自分たちが王になるために、国民人気の高いかの『瑠璃の乙女』を殺せ、なんてな。次の王はリル王女かもしれないっていう噂は本当みたいだな?」
「王直々のお言葉らしい。よっぽど焦ってんのか? お前らにそんな依頼を持ちかけるなんて」
ウリンは女性に攻撃することはない。
ヨミも可愛いものに目が無い性格で、いつだったか「瑠璃の乙女」が大好きだという話をしていたことを思いだした。
煉からすれば、人選を間違えているとしか思えないことだった。
しかし、王子たちはそれほど焦りを感じているとも考えられる。
「用意していた計画が悉く失敗しているらしい。イザナミからリヴァイアへの道の間に賊を待機させ、一次試験中に暗殺しようともしたみたいだ」
「ああー……賊は俺が退治したわ」
「やっぱりお前か。あの場にお前がいたのも納得だな。海路での護衛を頼まれたんだろ。お前が相手ならどんな賊でも相手にならんからな」
「暗殺は関与してないけどな。……依頼は受けたのか?」
「野暮なこと聞くんじゃねぇよ。俺が女を手にかける依頼を受けるわけねぇだろうが。ヨミも断ってたさ。……それより、ここからが本題だ」
ウリンは険しい表情を浮かべると、煉に顔を近づけより小さい声で話す。
結界を張っているとは言え、かなり警戒しているようだ。
「王子たちの後ろに、七神教の神官服を着た奴らがいた。もしかしたら、繋がっているのかもしれない。それで、思い出したんだが……昨日話した自称『神の使徒』ことだ」
「それが?」
ウリンは話の途中にワインを挟み、一息入れる。
「七神教には神聖騎士団とは別に、裏で暗躍している奴らがいるって話を耳にしたことがあるんだ。確か――『シャリア』って名の組織だった気がする。『神の使徒』っていうのはそいつらの事かもしれない。レン、気を付けろよ。お前も知っているだろうが、七神教ってのは意外と闇が深い」
「ああ……それは身をもって体感してる」
煉はかつて聖都で暴れまわったことを思いだし、ワインを口にする。
飲みなれないワインに顔を顰めながらも、手は止まらない。
そのまま二人は朝まで飲み明かしたのだった。
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