第248話 二次試験開始
一日一回、ギルドで毎回絡んでくるギルを適当にあしらうこと一週間。
招待していた来賓が到着し、ようやく二次試験が開催される。
街の住民、武闘大会を見るために足を運んだ観光客、冒険者や商人が闘技場に押しかけ、観客席は満席。
貴賓席にはネプテュナス王や王子たち、他国の王侯貴族。
あまりの盛況ぶりに、リヴァイアを治める新領主も満面の笑みでガイアスと握手を交わすほど。
Sランク昇格試験を利用した興行は大成功と言っても過言ではないだろう。
そして、歓声に包まれるステージの中心にて、ガイアスは高らかに開会を宣言する。
「これよりSランク昇格二次試験を行う! Sランクとなるにふさわしい力、存分に見せてみろ!」
爆発のような大歓声が、晴れ渡るリヴァイアの空に響く。
ガイアスと入れ替わりで、ステージには第一試合のグループが姿を現す。
歓声を上げていた観客たちに動揺が広がった。
ステージに上がった六人の冒険者の中に、一人裸足の少女が紛れ込んでいるのを目にしたのだ。
その幼気な姿に、誰も彼女がAランク冒険者だとは思えなかった。
しかし、貴族の護衛をしている騎士や客席で見ていた高位の冒険者は、その少女の異様な雰囲気を感じ取っていた。
餓えた獣のような眼光、獰猛な笑みを浮かべ今か今かと開始の合図を待っている。
ステージ上では、その少女と二人で和気藹々と話す魔術師の女性が注目されていた。
「『屍鬼』で二つ名……あんまり好きじゃないのよねぇ」
「なんで? カッコいいよ?」
「鬼よ、鬼。私、そんなに怖いかしらぁ。ただの綺麗なお姉さんだと自負しているのだけれど」
「んー、ウチには難しくてわからないけど、カッコいいから気にしなくていいと思うよ!」
「コノハちゃん、そればっかりね……。それより、勘違いしている馬鹿たちがコノハちゃんを狙ってるみたいよぉ。気を付けてね」
「大丈夫! あの人たちそんなに強くないから!」
無邪気にそう言い放つコノハの言葉は、目の前の冒険者たちに聞こえていた。
少女に弱いと言われたことに、プライドを傷つけられた彼らは目の色を変えた。
そして四人で顔を合わせ、頷き合う。
コノハとヨミが離れ、お互いステージの反対側に移動し向かい合う
その時、ガイアスが試合開始を告げる鐘を鳴らした。
「ガキに舐められて黙ってられるか!」
「少し痛い目を見てもらうぜ」
鐘が鳴ると同時に、二人ずつ別れコノハとヨミを狙う。
確実に強いヨミと、実力未知数の少女を二対一で倒そうとしている。
しかし、それは間違いだった。
同じAランク冒険者だが、個人の実力には圧倒的な差があり、二対一で倒せるほどの相手ではない。
「あらあらぁ。二人で倒せるほど、私は弱くないわよ。そもそも、この顔ぶれで武闘大会って言うのも、無理があると思うのよねぇ。……悪いけれど、手加減する気はないから」
長杖で地面を軽く叩くと、ヨミの後方に影が広がる。
広がった影が蠢き、巨大な黒い爪が飛び出してくる。
Aランク以上なら、一度は目にしたことがあるだろうそのシルエットに冒険者たちの足が止まる。
客席からも盛大な悲鳴が上がり、誰もがその存在を理解する。
「あ……ああ……あ、ああ……」
「何てモノを、隠し持ってやがる……」
「この子は私のお気に入りよ。死にたくなければ降参しなさい」
全身影に覆われた竜がヨミに寄り添うように姿を現した。
森の中で召喚した竜とは違い、死霊魔法で従えたわけではない。
竜種の中でも特に希少種とされる影の王。
「”
コノハを狙っていた冒険者たちも背後から感じる威圧感に足を止め、顔を引き攣らせる。
誰もが恐怖を感じ、震える足を奮い立たせようとしている中、ただ一人目を輝かせていた。
「いいね、いいね!! 竜退治は冒険者の浪漫だってお兄さんも言ってたし、そっちの方が楽しそう!! そうなると……おじさんたちは邪魔かな」
コノハは自身の魔力を足に集中させ、思い切り地面を踏みつけた。
「〈獅震脚〉!」
激しい衝撃でステージに亀裂が走るだけでなく、闘技場全体が揺れた。
局所的な地震に見舞われ過去最大の悲鳴が上がる。
準備はできたと言わんばかりに、コノハはヨミへ指を突き付けた。
「さあ、お姉さん! 勝負だ!!」
「え、いやぁ、その……コノハちゃん、周り見てごらん」
「ん?」
言われた通り、コノハは周囲を見渡した。
ステージの上にはコノハとヨミ、そして影竜のみ。
他の冒険者たちは、コノハの震脚の衝撃でステージ外に吹き飛ばされ、気絶。
気づいたころにはもう遅かった。
「そこまで! 第一グループ終了!」
そして、ガイアスが戦闘終了を告げた。
かけ離れた力量の差に、試合はすぐに終わってしまったのだ。
「残念だけど、コノハちゃんとの勝負はお預けねぇ」
「ええ!? そんなぁ……」
戦えなかったショックで項垂れるコノハ。
呆気ない終わりに、観客も呆然としている。
そして客席には、影竜を見て興奮している煉を抑え込むイバラの姿があったのだが、誰も触れることはなかった。
こうして第一グループは、コノハとヨミの勝利で幕を閉じたのだった。
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