第122話 前途多難

「――――ふんっ!」


 燃え盛る刀身を振り下ろし、森猿が真っ二つになる。

 さらに斬り口から燃え上がり森猿の死体は灰となった。

 煉は鞘に刀を納め、息を吐いた。


「ふぅ。これで終わったな」

「…………そうですね。終わりましたね」

「…………レンよ。何か言うことはないのか?」


 二人にジト目を向けられ、煉は首を傾げた。

 何か咎められるようなことをしたかと、少し考えるが答えは出ない。

 なぜ自分にそんな視線を向けるのだろうと不満そうな目で返す。

 するとイバラは呆れたようにため息を吐き、アイトがわなわなと周囲を指さしながら言った二人の声は綺麗に重なる。


「「この惨状見て何か思わないですかっ!!?」」


 そう言われ、煉が自分の目で周囲を確認。

 半径十メートルほどの範囲で森林火災が起こっていた。

 イバラは後方で魔法支援をしていただけ。

 アイトは魔道具で牽制程度の攻撃しか行っていない。

 故に、これは煉が暴れまわった結果である。

 森猿の死体は一つ残らず灰となり、素材や討伐証明の魔石すらなくなっているだろう。

 以前からイバラの注意されていたことだが、倒すことに夢中になっていた煉はすっかりと忘れてしまったのだった。


「あー……ちょいとやりすぎたかなぁ……なんて」

「ちょっとじゃないですよ! 今ここだけものすごい勢いで温度が上昇してますよ! とにかく、まずは炎を消してください!!」

「あ、ハイ。すみません」


 煉が右腕を一振りすると燃え盛っていた炎がきれいさっぱり消え去った。

 残されたのは、燃え残った木と灰の山だけ。


「これじゃ、素材とか魔石とか何もないじゃないですか。いつも言っていますよね? 素材は仕方ないとしても魔石くらいは残してくださいって。というか、魔石まで燃えるとか意味わからないんですけど!」

「い、いや、燃えちゃったもんはどうしようもないし……。取り逃がした猿もいるから次はちゃんとやるからっ」

「最初から炎使わなければよかったんですよ。森猿くらいなら刀だけで充分でしょ」

「…………数が多くて面倒だから、燃やしました」


 煉がそう言うと、さらにイバラのお説教が激しくなった。

 その脇で、アイトは座り込みお茶を飲んで説教が終わるのを待っていた。



 ◇◇◇



「まったく。次からは本当に気を付けてくださいねっ」

「はい……申し訳ございませんでした」


 煉は体を九十度曲げ誠心誠意謝罪した。

 結局イバラの説教は三十分ほど続いた。

 死界内にいるというのに、説教でその場に留まるのは煉たちくらいだろう。

 イバラは煉を放置し、そのまま灰の山から何か残っていないかと探し始めた。


「出だしで躓くとは、レンらしいな」

「……うっせ」

「俺は心配だぞ。この森の木全部燃やし尽くさないかってな」

「そんなことしねぇわ! ………………たぶん」

「できれば、絶対、って言ってほしかったわ………」

「アイト…………この世には、絶対なんてことはないんだぞ」

「お前が言うんじゃねぇよ!」


 アイトが煉の背中を叩く。

 一変して煉の表情が真面目なものになった。


「アイト。予想外の戦闘だったが、この先もっとおかしなことになる気がする。だから、もっと気を引き締めないとだな。一瞬の油断が命取りになる。俺も、お前も」

「ああ。わかってるさ。足だけは引っ張らないようにする。お前の足枷になるつもりはないからな」

「期待してるさ。正直不安だが、な」


 そう言って二人は笑い合う。

 幸先の悪いスタートにこの先の不安は募るばかりだが、三人でなら乗り越えられる。

 そう信じ、煉は気合を入れ直したのだった。





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