第68話 先読

「……なあ、やっぱり多いよな?」

「……そうですね。さすがに多すぎると思います」


 連日、森に出ては魔獣の討伐をする二人。

 ここ最近魔獣の討伐依頼が増える一方だそうだ。

 そして、多く報告されるものは、近辺では発見されることのない魔獣であったりもする。

 当然、冒険者たちも違和感を感じていた。

 しかし、ギルドから通達がないため、とりあえず依頼をこなしていたのだった。


「ギルドで確認してみるか」

「そうですね。私たちで勝手に判断していいものではありませんし」

「はぁ……天使探したりで面倒なのに。勘弁してくれ……」

「そうは言っても依頼なんですから。中には私たちが相手をしなくてはならない魔獣もいるんですし」


 煉たちが駆り出されているのは、偏にミミール支部で活動する冒険者のランクが低いためである。

 最高ランクがつい先日にBランクへ昇格した男一人だけ。

 元々ミミールの周辺ではあまり魔獣の出現など滅多にないことで、冒険者のランクが低くてもどうにかやってこれたのだ。

 今回の報告数が異常なのである。


「ギルドに行けばわかることか」

「そうですよ。うだうだ言ってないで早く戻りましょう」


 そして、煉が指を鳴らすと、二人は炎に包まれてその場から消えた。




 ◇◇◇



 ギルドに戻った二人は、異様な雰囲気に包まれている冒険者たちを見て、少したじろいだ。


「なんか……お通夜みたいだな」

「いつもだったらもっと騒がしいのに、どうしたのでしょうか」

「――――『炎魔』殿! 戻られたか!」


 煉に声をかけてきたのは、低身長で眼鏡をかけた隈だらけの男。

 ミミール支部のギルドマスターである、ガレックだった。

 ギルドマスターとしては戦闘能力が皆無であり、どの冒険者よりも弱いと自負している。

 その反面、知識では勝るものはいないと言われている。

 ガレックは、頭脳のみで今の地位まで登りつめた元冒険者である。


「そんなに慌ててどうしたんだ?」

「それが……街に危険が訪れているみたいである。詳細は僕の部屋で話そうぞ。付いてこられたし」

「……なあ、その話し方、やっぱりやめない?」

「なっ!? これは僕のアイデンティティであるぞ! それをやめろと申すされるか!?」

「おう。なんか嫌」


 ガーン、と音がしそうなほどうなだれるギルドマスター。

 その顔は悲壮感に満ち溢れていた。


「こ、こんなことしている場合ではないのである」


 立ち直ったガレックは煉とイバラを連れて、ギルドの二階にある執務室へと案内した。

 お茶を飲み一息入れたところで、ガレックが真面目な顔をして煉たちの方へ向き直った。


「先ほど、皇宮より魔道通信にて報告を賜った。君たちも先読の使い手がいることを知っているであるな?」

「ああ、確か魔力の消費に比例して先の未来を見通す力、だったか?」

「その通りである。件の人物は王の命により、限界まで魔力を消費し、数日先の未来を覗いたらしい。すると……」


 そこで言葉を区切り、ガレックは言いにくそうに口をパクパクさせた。

 その様子が可笑しかったのか、イバラが笑いをこらえていた。


「変な顔してないでさっさと話せ」

「失礼なっ! こんなに話しにくいことなぞ、早々ない故、君たちも覚悟は良いであるな?」

「めんどくせぇな。どうせ今回の大量の魔獣と関係してんだろ?」

「……気づいておられたか。さすがは『炎魔』殿であるな。しかり。数日の後、この街は魔獣の群れに荒らされ、崩壊する街並みを見た。彼はそう言って気絶してしまったのである」


 煉は想像通りの事態にため息を吐いた。


「原因は?」

「……………………数十にも及ぶ、地竜の群れである」


 さすがに想定していなかった答えで、煉とイバラは目を見開いた。


「さすがに此度の事態、ギルドとしても見過ごせないのである。『炎魔』殿、イバラ殿、ぜひお二人の力をお貸し願いたい!」


 そう言ってガレックは深く頭を下げた。





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